・・・「スキーできる?」と、勇ちゃんがききました。「ちっとばかり。」と、年子は答えた。「じゃ、明日、お姉さんのお墓へ、いっしょにゆこう。」と、勇ちゃんが、いいました。 翌日は、いいお天気でした。ふたりは、町を距たった、林の下にあっ・・・ 小川未明 「青い星の国へ」
・・・ 汽車の中は、スキーにゆく人たちで、にぎやかでした。真吉は、これを見て、「雪がふると、お母さんは、町へ出るのに、どんなに不自由をなさるかしれない。それだのに、この人たちは、遊びができるといってよろこんでいる。」 こう思うと、その・・・ 小川未明 「真吉とお母さん」
・・・地形がいい工合に傾斜を作っている原っぱで、スキー装束をした男が二人、月光を浴びながらかわるがわる滑走しては跳躍した。 昼間、子供達が板を尻に当てて棒で揖をとりながら、行列して滑る有様を信子が話していたが、その切り通し坂はその傾斜の地続き・・・ 梶井基次郎 「雪後」
・・・とっさの思いつきで、今度はスキーのようにして滑り下りてみようと思った。身体の重心さえ失わなかったら滑り切れるだろうと思った。鋲の打ってない靴の底はずるずる赤土の上を滑りはじめた。二間余りの間である。しかしその二間余りが尽きてしまった所は高い・・・ 梶井基次郎 「路上」
・・・私は女学校時代のつぎはぎだらけのスカートに、それからやはり昔スキーの時に着た黄色いジャケツ。此のジャケツは、もうすっかり小さくなって、両腕が肘ちかく迄にょっきり出るのです。袖口はほころびて、毛糸が垂れさがって、まず申し分のない代物なのです。・・・ 太宰治 「恥」
・・・この点スキーやダンスに似ている。そうしてだれでもある程度まではできるから楽しみになる。しかし連句は読んでおもしろくても作るのはなかなかたいへんである。この点映画と同じである。そうしてしかも現在の大衆にはわかりにくい象徴的な前衛映画である。・・・ 寺田寅彦 「俳諧瑣談」
・・・登るときは牛のようにのろい代りに、下り坂は奔馬のごとくスキーのごとく早いので、二度に一度は船暈のような脳貧血症状を起こしたものである。やっと熱海の宿に着いて暈の治りかけた頃にあの塩湯に入るとまたもう一遍軽い嘔気を催したように記憶している。・・・ 寺田寅彦 「箱根熱海バス紀行」
・・・その知識の詳密精細なる事はまた格別なもので、向って左のどの辺に誰がいて、その反対の側に誰の席があるなどと、まるで露西亜へ昨日行って見て来たように、例のむずかしい何々スキーなどと云う名前がいくつも出た。しかし不思議にもこの談話は、物知りぶった・・・ 夏目漱石 「長谷川君と余」
・・・夫の米リンスキーが世間唯一意匠ありて存すといわれしも強ちに出放題にもあるまじと思わる。 形とは物なり。物動いて事を生ず。されば事も亦形なり。意物に見われし者、之を物の持前という。物質の和合也。其事に見われしもの之を事の持前というに、事の・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・リベディンスキーは「一週間」を。ピリニャークは代表的な「裸の年」を書いたのである。 各作家めいめいが、めいめいの傾向のままにそれ等を書いたのであったが、十月革命は、その発展の日常具体的な過程によってあらゆる個人を集団へ、集団的行動の中へ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫