・・・時間の多少は一様ではない。必要の度の高い英語のごときは比較的多くの時間を占領している。批評の条項についても諸人の合意でこれらの高下を定める事ができるかも知れぬ。崇高感を第一位に置くもよい。純美感を第一にするもよい。あるいは人間の機微に触れた・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・ お前は、俺達を、一様に搾取するだけで倦き足りないで、そういう風にして、個々の俺達の仲間までも堕落させるんだ。 フン! 捩れ。 押しひしゃげ。やるがいいや。捩れるときは捩れるもんだ。そうそういつまでも、機会というものがお前を待っては・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・又、彼等は一様に、何かに性急に追いまくられてるように感じた。 彼等は、純粋な憐みと、純粋な憤りとの、混合酒に酔っ払った。 ――俺たちも―― 此考えを、彼等は頑固な靴や、下駄で、力一杯踏みつけた。が、踏みつけても、踏みつけても、溜・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・記者は前節婦人七去の条に、婬乱なれば去ると記し、婦人が不品行を犯せば其罪直に放逐と宣告しながら、今こゝには打て替り、男子が同一様の罪を犯すときは、婦人は之を怒りもせず怨みもせず、気色言葉を雅にして、却て其犯罪者に見限られぬように注意せよと言・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・かつその仲間の教育なり年齢なり、また門閥なり、おおよそ一様同等にして抜群の巨魁なきがために、衆力を中心に集めて方向を一にするを得ず。ついに維新の前後より廃藩置県の時に際し今日に至るまで、中津藩に限りて無事静穏なりし由縁なり。もしもこの際に流・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・たまたま時間を写すものありとも、そは現在と一様なる事情の過去または未来に継続するに過ぎず。ここに例外とすべき蕪村の句二首あり。御手討の夫婦なりしを更衣打ちはたす梵論つれだちて夏野かな 前者は過去のある人事を叙し、後者は未・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
近代企業としての映画は、経営の上にも技術の上にも急速な発達をとげているのだが、映画に扱われている女の生活というものは一様にある水準に止まっている。技術的にはアメリカやフランスの映画が先へ歩いて行っている部分のあることは明か・・・ 宮本百合子 「映画の恋愛」
・・・今日、作家としてすこし野望的なひとは、新聞へ連載小説をかくということについて、一様に積極的な乗り気を云わず語らずのうちにもっているように見られる。そして、それが、文学の大衆性への翹望などというものから湧いている気持ではなくて、当今、人気作家・・・ 宮本百合子 「おのずから低きに」
・・・しかし芸術品は必ずしもすべての人々から一様に芸術的な鑑賞を受けるものでない。例えば、優れた作品ほど正当な鑑賞を受けにくいということは、古来の偉大な作品が明らかに実証している。だから作品を公開する場合には、公衆の中の何割かが正当な芸術的鑑賞に・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
・・・自己の価値はもはや問題にならなくて、どんなものでも、またどんなにそれが偏狭であっても、とにかく自己として現われてくる者は皆一様に絶対の価値を担っていると信じていた。 そうして自分はどうなったか。自分は独我主義の思想を体現したのである。外・・・ 和辻哲郎 「自己の肯定と否定と」
出典:青空文庫