・・・ 近代文学胎生期としての明治初年の文学に交流していた上述の二様の流れは、逍遙の英文学研究の業績、二葉亭四迷の当時にあっては驚くべき心理小説の後をうけて硯友社の活動の裡にも謂わば併流している。前代からの遺産としての戯作者文学の伝統は、今日・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 科学と文学の交流 よく科学者に珍らしい詩人的要素とか審美的な感覚とかいう表現が、一つの讚辞として流用されている。故寺田寅彦博士の存在は、文化の綜合的な享楽者または与え手という意味で、多数の人々の敬愛をあつめて・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・ 古人がすでにその風流の途上で看破している自然と人間の主観との以上のような交流は、特に日本古典文学の領域の中でおびただしい表現をもっているのである。然し、人間の主観的な感情の鏡によって、自然の姿が悲喜さまざまに観られ感受されると同時に、・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・何をどうとも云えないが、面白いという思いがその先生と自分との間を交流するようで、私はいつも謹んで一生懸命であった。 五年生になって、千葉先生は教育をうけもたれ、心理学の講義がはじまった。ごく初歩の概論だったにちがいないけれども、この学課・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・アメリカの文化との交流、中国の文化の正しい再認識と評価。イギリスの、又フランスの、新しい生活力の開花して行く様子の反映。ソヴェトの文化の研究。これらすべては私たちの成長のために欠くことの出来ない栄養である。〔一九四六年五月〕・・・ 宮本百合子 「新世界の富」
・・・ナチス占領下のフランスで、フランス人民の自由と文化を守ろうとした人々は、反ナチス、ユダヤ人とさえ見れば虐殺したナチス暴圧下のドイツの中でなおひそかに人類の正義と人権のためにたたかっている人々との交流があった。フランス婦人の間に組織された大学・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
・・・ず流れ出し、忍耐づよく時とともにその流域をひろげ、初めは日常茶飯の話題しかなかったものが、いつしか文化・文学の諸問題から世界情勢についての観測までを互に語り合う健やかな知識と情感との綯い合わされた精神交流となって十二年を成長しつづけて来たと・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
・・・民主日本に発足しながら、今日まで日本と外国との文化交流は、むずかしい翻訳権問題で行き悩んでいる。外国の書籍を、せりでおとして翻訳を許可されるというような世界に珍しい現象さえ行われている。 こういう不便でかつおたがいにきまりのよくない文化・・・ 宮本百合子 「はしがき(『文芸評論集』)」
・・・ 昔、文学の領域でアナーキズムとマルクシズムとの論争が旺んであった時代は、プロレタリア文学史のことで最も紛糾した頁をなしているのであろうと思うが、それは性質において今日プロレタリア文学内に交流し渦まきその頭や尻尾が見えつかくれつしている・・・ 宮本百合子 「プロ文学の中間報告」
・・・ような霊的交流をもって生活したが、やがて男はそのみこのような霊力の女をすてて、別の女と結婚し、死ぬ。 龍江は、だが、男の結婚したことは知らず、ある夜、ふろの中で突然はげしい香におそわれ、真裸でこのような強い香をかぐのは、たいへん恥しいこ・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫