・・・これは読者の判断に任せるほかにない。 伝聞するところによると現代物理学の第一人者であるデンマークのニエルス・ボーアは現代物理学の根本に横たわるある矛盾を論じた際に、この矛盾を解きうるまでにわれわれ人間の頭はまだ進んでいないだろう・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・ 前に云った第一の方法、すなわち心理過程の追究を読者に任せる方法でも、その読者を導いて普遍的な心理的経験を遂行させる事が必要であるが、その作に価値を与えるためにはその経験が単に普遍であるのみならず、それが読者にとってなんらかの意味で新し・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
・・・ 日本では、囚人や社会主義者、無政府主義者を、地震に委せるんだね。地震で時の流れを押し止めるんだ。 ジャッガーノート! 赤ん坊の手を捻るのは、造作もねえこった。お前は一人前の大人だ。な、おまけに高利で貸した血の出るような金で、食・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・蚕を養うにも家人自からすると雇人に打任せるとは其生育に相違ありと言う。況んや自分の産みたる子供に於てをや。人任せの不可なるは言わずして明白なる可し。世間の婦人或は此道理を知らず、多くの子を持ちながら其着物の綻を縫うは面倒なり、其食事の世話は・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・彼女の身は彼の如何なる暗黒な意にも委せると云う意志を読んだような気がした。」此の心持を逆に自分は経験するのだ。 決して、理知は暗黒な意力、或は暴威を、互の為に許しはしないのだ。が、或瞬間、情熱の爆発は、其の忘我まで自分を馳り立てる。・・・ 宮本百合子 「結婚問題に就て考慮する迄」
・・・Strindberg は伯爵家の令嬢が父の部屋附の家来に身を任せる処を書いて、平民主義の貴族主義に打ち勝つ意を寓した。これまでもストリンドベルクは本物の気違になりはすまいかと云われたことが度々あるが、頃日また少し怪しくなり掛かっている。いず・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・ 私は恋愛や性慾に身を委せるのがいきなり悪いと言うのではありません。ただそういう方面の芽は自分で生かせようと努めないでもどんどんのびて行くものだというのです。そうしてそののびて行くことはいいことなのです。しかし「すべてを生かせよ、一切の・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
出典:青空文庫