・・・そこへああいう風のものを出されたのですから、読書界ならびに作者界に大分異った感じを与えられた事は事実であります。もっとも某先生の助力があったという事も聞いて居ますが、西洋臭いものの割には言葉遣などもよくこなれていて、而して従来のやり方とは全・・・ 幸田露伴 「言語体の文章と浮雲」
・・・ ロシアの作者、ツルゲネフやトルストイにあらわれた虚無思想をもって最もよく人生観上の自然主義に当たるものと見る人もある。虚無思想の中心は、ツルゲネフの作が定義するところによれば、あらゆるものを信ぜず、あらゆる権威に抗争する点に存する。し・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・ これらの點より推さばこの傳説作者は、天地人三才の思想を背景にして、之を創作せるものなるべく、漢人殊に儒教が天子に望む所は公明正大、その間に一點の私を插むなからんことなれば、この理想を堯に托してその禪讓をつくり、人道の理想を舜に、勤勉の・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
・・・お前さんの好きな色の着物ばかり着せられている。お前さんの好きな作者の書いた小説ばかり読ませられている。お前さんの好きなお数ばかり喰べさせられている。お前さんの好きな飲みものばかり飲ませられている。わたしはこんな風にチョコレエトを飲ませられて・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外 「一人舞台」
・・・ 発表をあきらめて、仕事をしているというのは、これは、作者の人のよさではない。これは、悪魔以上である。なかなか、おそろしいことである。 くだらないことばかり言っている。訪客あきれて、帰り支度をはじめる。べつに引きとめない。孤独の覚悟・・・ 太宰治 「一日の労苦」
・・・それに、その一条は、多少、作者と主人公と深く交り合っているような形である。 刀根の下流の描写は、――大越から中田までの間の描写は想像でやったので、後に行ってみて、ひどく違っているのを発見して、惜しいことをしたと思った。やはり、写生でなけ・・・ 田山花袋 「『田舎教師』について」
・・・ベートーヴェンの作品でも大きなシンフォニーなどより、むしろカンマームジークの類を好むという事や、ショパン、シューマンその他浪漫派の作者や、またワグナーその他の楽劇にあまり同情しない事なども、何となく彼の面目を想像させる。 絵画には全く無・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・ わたくしは先年坊間の一書肆に於て饒歌余譚と題した一冊の写本を獲たことがある。作者は苔城松子雁戯稿となせるのみで、何人なるやを詳にしない。然しこの書は明治十年西南戦争の平定した後凱旋の兵士が除隊の命を待つ間一時谷中辺の寺院に宿泊していた・・・ 永井荷風 「上野」
・・・従ってこの篇の如きも作者の随意に事実を前後したり、場合を創造したり、性格を書き直したりしてかなり小説に近いものに改めてしもうた。主意はこんな事が面白いから書いて見ようというので、マロリーが面白いからマロリーを紹介しようというのではない。その・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・この仕方で出版された書物は、その特種なる国民的趣味を代表する表紙の一色によつて、作者自身の属してゐる民族別を表明するの外何の個別的な趣味をも指定してゐない。つまりその本当の装幀は、一切読者自身の自由意志に任かすのである。それによつて読者は、・・・ 萩原朔太郎 「装幀の意義」
出典:青空文庫