・・・得を以て損を償うに足らざるものというべし。 そもそも維新の事は帝室の名義ありといえども、その実は二、三の強藩が徳川に敵したるものより外ならず。この時に当りて徳川家の一類に三河武士の旧風あらんには、伏見の敗余江戸に帰るもさらに佐幕の諸藩に・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・私のような弱いものをだますなんて、償うてください。償うてください。」「それはしかたない。お前の行きようが少しおそかったのや。」「知らん、知らん。私のような弱いものをだまして。償うてください。償うてください。」「困ったやつだな。ひ・・・ 宮沢賢治 「ツェねずみ」
・・・が、母上は、我々の突然な結婚によって受けた苦痛、恥辱の感、それを如何うして償うかと云うことを根拠として、強く、彼女の意見に執されるのだ。 我々にとっても、彼女にとっても、恐らく家族全部にとって、一九二〇年の春は重苦しく、辛いものであった・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・ただ亡くしたその子が惜しく、ほかの何を持って来ても償うことのできない悲しみなのだ。亡き子の面影が浮かんでくると、無限になつかしく、可愛そうで、どうにかして生きていてくれればよかったと思う。死は人生の常で、わが子ばかりが死ぬのではないが、しか・・・ 和辻哲郎 「初めて西田幾多郎の名を聞いたころ」
出典:青空文庫