・・・労働調査のために医員が出張して、一つのキャンプを試験管や血圧検査機で一杯にしている。「ギガント」事務所のわきにフォードの幌形自動車がとまって、踏段に片足かけ、パイプをほじっているのは、縞シャツのアメリカ技師だ。洒落た鎌と槌との飾りをつけ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・ 築地の左翼劇場では、警官が出張して台本と首っ引で坐っているよ。あの通りを行ってるんじゃないか? それに近いような噂だぜ。 ――……実にデマが利いているんだなあ。 ――嘘かい? ――ソヴェトのプロレタリアートや彼等の党は偏執狂じ・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・そのうちに父が九州まで出張しなければならなくなった。用事は彼を待っているが気が進まず、やっと、医師の保証で出立した。出立の夕方父は、隠居所に行った。「一寸用で国府津まで行くと申上て来たからその積りでいてくれ。遠くだと落胆なさるといけない・・・ 宮本百合子 「祖母のために」
・・・ 私が大きくなってからの父は、随分あちこちに出張の旅行をしたが、筆まめとはいえなくて、母あての手紙も大抵は箇条がきのように用件をかいたのが多くなった。それでもそのあとさきには、よく眠れますかとか、よく眠るようにとか、とかく健康の勝れなか・・・ 宮本百合子 「父の手紙」
・・・ 良人がそれを云い出した時、丁度ロザリーは銀行からシンガポールに出張を命ぜられたところでした。彼女は仕事のことだから当然として承諾しました。けれども、良人は、結婚後始めて、「女は違う、子供をどうする?」と云う言葉で快諾しません。ロザリー・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・ほんとのお針女、日給僅か三フランを得るために、ある時はブルジョアの家に出張したり、またある時は、自家の小さな部屋――ミシンのところへ行くのにはマネキン人形をずらさなければならないという、そんな小さな部屋で働いたりしている貧しい「女裁縫師」で・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
・・・ 酉の下刻に西丸目附徒士頭十五番組水野采女の指図で、西丸徒士目附永井亀次郎、久保田英次郎、西丸小人目附平岡唯八郎、井上又八、使之者志母谷金左衛門、伊丹長次郎、黒鍬之者四人が出張した。それに本多家、遠藤家、平岡家、鵜殿家の出役があって、先・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫