・・・ オリオンは勇ましい歌をつづけながらよだかなどはてんで相手にしませんでした。よだかは泣きそうになって、よろよろと落ちて、それからやっとふみとまって、もう一ぺんとびめぐりました。それから、南の大犬座の方へまっすぐに飛びながら叫びました。・・・ 宮沢賢治 「よだかの星」
・・・「あの本――少年倶楽部……僕よんだことあるよ、島村大尉ってとても勇ましいんだね」「ハハハハそれは違うよ、それは別の人が拵えたんだよ多勢で……ハハハハハハ」 その人が一太の顔を気持良く輝く日向みたいな眼で真正面から見て笑うので、一・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・ 青い陰険な顔をした法王。黒い長衣着て黒長靴と云ういでたちの富農、それら三つの頭の上に、どえらいハンマーを握った労働者の手と、カマを持った農民の手とが、こしらえてある。 勇ましい行進曲につれて、その張り物をかついだコムソモールが歩き・・・ 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
・・・また学校の教育方針が急に変って、今までは自分の好きな髪に結って居ってもよかったのが、勇ましい髪形をしなければならなくなったり、千人針に動員されたことから次第に、動員の程度がひどくなって、終りには学校工場に働いたり、また実際に工場に行って暮し・・・ 宮本百合子 「美しく豊な生活へ」
・・・と題してきり出された勇ましいその評論も、すえは何となししんみりして、最後のくだり一転は筆者がひとしおいとしく思っている心境小説の作家尾崎一雄を、ひいきしている故にたしなめるという前おきできめつける、歌舞伎ごのみの思い入れにおわった。ジャーナ・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・ 国内戦を経て、勇ましい階級的闘士をウンと出した婦人の基本的文化も一般的に云えば低かった。証拠に、全文盲人員の中、三千四百五十七万六千百二十八人は文字のわからない勤労婦人だった。 ところが、文盲撲滅の文化運動は、社会主義社会に生きる・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・ フランツはついに見たことのない子供の群れを見て、気兼をして立ち留まった。 子供達は皆じいっとして木精を聞いていたのであるが、木精の声が止んでしまうと、また声を揃えてハルロオと呼んだ。 勇ましい、底力のある声である。 暫くす・・・ 森鴎外 「木精」
・・・ですが僕はこんなに気楽には見えてもあのように終りまで心にかけて、僕のようなものの行末を案じて下すった奥さまに対して、是非清い勇ましい人物にならなくッてはならないと、始終考えているんです。・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
・・・悲しみのなかから勇ましい心持ちが湧いて出るまで。私の愛は恋人が醜いゆえにますます募るのである。 私は絶えずチクチク私の心を刺す執拗な腹の虫を断然押えつけてしまうつもりで、近ごろある製作に従事した。静かな歓喜がかなり永い間続いた。そのゆえ・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・そうして私は彼らの内に勇ましい生活の戦士を見、生の意義を追い求める青年の焦燥をともにし得ると思った。彼らの雰囲気が青春に充ち、極度に自由であることをも感じた。彼らの粗暴な無道徳な行為も、因襲の圧迫を恐れない真実の生の冒険心――大胆に生の渦巻・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫