・・・私はあの救助係の大きな石を鉄梃で動かすあたりから、あとは勝手に私の空想を書いていこうと思っていたのです。ところが次の日救助係がまるでちがった人になってしまい、泥岩の中からは空想よりももっと変なあしあとなどが出てきたのです。その半分書いた分だ・・・ 宮沢賢治 「イギリス海岸」
・・・と、結ばれているが、既に現代の文学観は、「物が人を動かす」面にだけ立脚したプレハーノフの理論の時代から辛苦の結果、数歩をすすめて来ている。物は人を動かすが、人が又物をいかに強力にうごかすかという人類の能動力その相互関係において有機的に芸術を・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・自分が手に持っている道具も、真の鉅匠大家の手に渡れば、世界を動かす作品をも造り出すものだとは自覚している。自覚していながら、遊びの心持になっているのである。ガンベッタの兵が、あるとき突撃をし掛けて鋒が鈍った。ガンベッタが喇叭を吹けと云った。・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・合理がこれを動かすのか、非合理がこれを動かすのかそれさえ分らぬ。ただ分っていることは、人人は神を信じるか、それとも自分の頭を信じるかという難問のうちの、一つを選ぶ能力に頼るだけである。他の文句など全く不必要なこんなときでも、まだ何とかかとか・・・ 横光利一 「鵜飼」
・・・大阪城の巨石のごときは何百人何千人の力を一つの気合いに合わせなくては一尺を動かすこともできなかったであろう。それでもまだどうして動かせたか見当のつかないほどの巨石がある。そういう巨石を数多くあの丘の上まで運んで来るためには、どれほどの人力を・・・ 和辻哲郎 「城」
出典:青空文庫