・・・何故ならこれに答えるためには、その場合の事情の十全な認識、行為のあらゆる結果の十全なる予測が必要であるが、かかる知見は神ならぬ人間には存しないからだ。かかる意味で、道徳上絶対に妥当な意志決定はありあたわぬ。しかしおよそ道徳とは何か、道徳的な・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・明晰にして判明なるものは、それ自身によって理解せられるもの、十全なる知識として、真にあるものでなければならない。神はそれ自身を表現するものである。我々の観念が神を原因とするかぎり明晰判明である、十全である。要するにコーギトー・エルゴー・スム・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・最も憂うべき所にして、ある人の説に十全の正直は十全の親愛と両立すべからずといいしも、この辺の事情を極言したるものならん。古今の道徳論者が世人の薄徳を歎き、未だ誠に至らずなど言うは、その言不分明にして徳の公私を分かたずといえども、意のある所を・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
出典:青空文庫