・・・しかれども実際は科学者が科学の領域を踏み外す危険を防止するためには、時にこれらの反省的考察が却って必要なるべし。特に予報の問題のごとき場合においては然りと信ず。余が不敏を顧みずここに二、三の問題を提起して批判を仰ぐ所因もまたこれに外ならず。・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・もし陛下の御身近く忠義こうこつの臣があって、陛下の赤子に差異はない、なにとぞ二十四名の者ども、罪の浅きも深きも一同に御宥し下されて、反省改悟の機会を御与え下されかしと、身を以て懇願する者があったならば、陛下も御頷きになって、我らは十二名の革・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・今の日本人はちと狸を軽蔑し過ぎるように思われやすからちょっと全国の狸共に代って拙から諸君に反省を希望して置きやしょう」「いやに理窟を云う狸だぜ」と源さんが云うと、松さんは本を伏せて「全く狸の言う通だよ、昔だって今だって、こっちがしっかり・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・批評哲学とは知識に対する深い反省である。この故にそれは哲学である。それは知識と真実在との深刻なる対決である。しかし真実在の問題は不可知的なる物自体の問題として捨てられた。問題を打ち切ってしまえばそれまでであるが、そこに多く問題が残されている・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・社会歴史の展望的な面へ科学的でない批判を集中して、資本主義の立場にたつ政治家がこんにち猛烈に反省をしなければ、日本の青年は政治的無関心に陥いるしかないといっている点など、こんにちの日本のブルジョア思想家の害悪をみないわけにはゆきません。こん・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・の検討は、われわれの関心、反省を、自身のプロレタリア作家としての活動の吟味に導いて来る。作家同盟で目下とり上げられている組織活動と創作活動の統一の問題にふれて来るのである。 十月号『プロレタリア文学』に鈴木清がこの問題について「一歩前進・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・市川房枝女史も、今の日本に三十九名もの婦人代議士の出たことはよろこぶべきよりも、寧ろ一般有権者の政治的水準の低さという点で反省、警戒されなければならないことと注意した。それにつれて、婦人参政の先輩諸国の経験が示された。一九一八年に婦人参政権・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・ 五条子爵は秀麿の手紙を読んでから、自己を反省したり、世間を見渡したりして、ざっとこれだけの事を考えた。しかしそれに就いて倅と往復を重ねた所で、自分の満足するだけの解決が出来そうにもなく、倅の帰って来る時期も近づいているので、それまで待・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・対象になったのは道徳的の無知無反省と教養の欠乏とのために、自分のしている恐ろしい悪事に気づかない人でした。彼は自分の手である人間を腐敗させておきながら、自分の罪の結果をその人のせいにして、ただその人のみを責めました。彼は物的価値以外を知らな・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
・・・もしこの種の外形的な努力が反省なしに続けて行かれるならば、日本画は低級芸術として時代の進展から落伍する時機が来るであろう。 この危険を救うものは画家の内部の革新である。芸人をやめて芸術家となることである。 院展日本画の大体としての印・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫