・・・市民階級が擡頭して作った近代ヨーロッパ社会と全然ちがう半封建の明治がはじまった。 明治の大啓蒙家であった福沢諭吉が、自分の著書にいつも東京平民福沢諭吉と署名したことを知らないものはない。これは彼の気骨を物語っている。その反面に、明治が、・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・ケーテが民衆の生活を描く画家として属していた歴史の世代が、ドイツにおける社会民主党の擡頭期とその急速な分裂の時代であったことはケーテの芸術のこの特徴と関係が深い。 ケーテが日常生活から題材をとって描き出しているスケッチには、感動させずに・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・ ――何色だったか……あれは大人のおとぎばなしですよ、菓子の中から革命が擡頭したりするファンタジーは、少し困りますよ。 いま赤色をはられているのは、絵本だった。東洋、西洋、地球上のいろんな民族のプロレタリアートが独特の服装、風景、方・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・あらわれた、文学の読みかたの、特殊な標準とも関連しているから、各種目の長篇小説の未曾有の氾濫状態の一面に、おのずと、文学とは何であろうかという、文学にとって最も核心にふれた反省が、一般の人の心のうちに擡頭しつつある。この頃のどの小説をよんで・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・その当時、主として『新思潮』の同人たちが、歴史的題材の小説に赴いたことの心理的要因には第一次欧州大戦につれて擡頭した新しい社会と文学の動きに対して、従来の文学的地盤に立つ教養で育った新進作家たちが、一面の進歩性と他面の保守によって、題材を過・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・このことに連関して、バルザックは王党派であったにも拘らず、プロレタリアの歴史的意味を正しく作品の中に反映していた、それは彼が傑れた芸術家であったからだという風に、簡単な反映論や無意識論が擡頭した。この傾向は、自然主義が日本に移植されてから、・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ 上述のような行動主義文学の理論の擡頭につれて、その能動精神への翹望の必然と同時に、真にその精神を能動的たらしめるためには、今日急速に生じている中小市民層の社会的立場の分化、知識人の階級的分化の実情にふれて理解しなければならぬとする論者・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・あわれはかなき人の世のうつろいを暗示する姿として自然が文学に描かれ、徳川時代の町人文学の擡頭時代には、すでに万葉時代の暢やかさ、豊醇さは自然の描写から遠く失われ、一方に無情的自然観を伝承していると同時に、町人の遊山の場面として生活に入って来・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・ 大体レフ・トルストイの思想と芸術とは、世界文学に冠絶した強靭な追求力、芸術的描写の現実性をもっているにかかわらず、当時ロシアに擡頭し発展しつつあった社会思想とは全然別な道を行っていた。個人個人の人間性への自覚、道徳的・宗教的愛の実践と・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
・・・プロレタリア文学の擡頭に対しても「この頃やつと始まりしは、反つて遅すぎる位なり。」「蒼生と悲喜を同うするは軽蔑すべきことなりや否や。僕は如何に考ふるも、彫虫の末技に誇るよりは高等なるを信ずるものなり。」と感じつつも「プロレタリアは悉く善玉、・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
出典:青空文庫