・・・私は、当日、小作の挿画のために、場所の実写を誂えるのに同行して、麻布我善坊から、狸穴辺――化けるのかと、すぐまたおなかまから苦情が出そうである。が、憚りながらそうではない。我ながらちょっとしおらしいほどに思う。かつて少年の頃、師家の玄関番を・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・車麩の鼠に怯えた様子では、同行を否定されそうな形勢だった処から、「お町さん、念仏を唱えるばかり吃驚した、厠の戸の白い手も、先へ入っていた女が、人影に急いで扉を閉めただけの事で、何でもないのだ。」と、おくれ馳せながら、正体見たり枯尾花流に――・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・さて、ついでに私の意気になった処を見され、御同行の婆々どのの丹精じゃ。その婆々どのから、くれぐれも、よろしゅうとな。いやしからば。村越 是非近々に。七左 おんでもない。晩にも出直す。や、今度は長尻長左衛門じゃぞ。奥方、農産会に出た、・・・ 泉鏡花 「錦染滝白糸」
・・・ 予は渋川に逢うや否や、直ぐに直江津に同行せよと勧め、渋川が呆れてるのを無理に同意さした。茶を持ってきた岡村に西行汽車の柏崎発は何時かと云えば、十一時二十分と十二時二十分だという。それでは其十一時二十分にしようときめる。岡村はそれでは直・・・ 伊藤左千夫 「浜菊」
・・・おとよはもちろん千葉まで同行して送るつもりであったが、汽車が動き出すと、おはまはかねて切符を買っていたとみえしゃにむに乗り込んでしまった。 汽車が日向駅を過ぎて、八街に着かんとする頃から、おはまは泣き出し、自分でも自分が抑えられないさま・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・暇乞いして帰ろうとすると、停車場まで送ろうといって、たった二、三丁であるが隈なく霽れた月の晩をブラブラ同行した。 満月ではなかったが、一点の曇りもない冴えた月夜で、丘の上から遠く望むと、見渡す果もなく一面に銀泥を刷いたように白い光で包ま・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・美人座の拡声機だとわかると、私は急に辟易してよほど引き返そうと思ったが、同行者があったのでそれもならず、赤い首を垂れて戎橋を渡ると、思い切って美人座の入口をくぐった。 その時の本番が静子で、紫地に太い銀糸が縦に一本はいったお召を着たすら・・・ 織田作之助 「世相」
・・・と念を押しながら、まだ十二時過ぎたばかりの時刻だったので、小僧と警察へ同行することにした。 警察では受附の巡査が、「こうした事件はすべて市役所の関係したことだから、そっちへ伴れて行ったらいいでしょう」と冷淡な態度で言放ったが、耕吉が執固・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・ 十二月の三日の夜、同行のものは中根の家に集まることになっていたゆえ僕も叔父の家に出かけた、おっかさんは危なかろうと止めにかかったが、おとっさんが『勇壮活発の気を養うためだから行け』とおっしゃった。 中根へ行って見るともう人がよほど・・・ 国木田独歩 「鹿狩り」
・・・ 書中のおもむきは、過日絮談の折にお話したごとく某々氏等と瓢酒野蔬で春郊漫歩の半日を楽もうと好晴の日に出掛ける、貴居はすでに都外故その節お尋ねしてご誘引する、ご同行あるならかの物二三枚をお忘れないように、呵々、というまでであった。 ・・・ 幸田露伴 「野道」
出典:青空文庫