・・・けれどもが、さし向かえば、些の尊敬をするわけでもない、自他平等、海藻のつくだ煮の品評に余念もありません。「戦争がないと生きている張り合いがない、ああツマラない、困った事だ、なんとか戦争を始めるくふうはないものかしら。」 加藤君が例の・・・ 国木田独歩 「号外」
・・・ 古谷君は懐手して、私の飲むのをじろじろ見て、そうして私の着物の品評をはじめた。「相変らず、いい下着を着ているな。しかし君は、わざと下着の見えるような着附けをしているけれども、それは邪道だぜ。」 その下着は、故郷のお婆さんのおさ・・・ 太宰治 「酒の追憶」
・・・ また別なとき同じ食堂でこのかいわいの銀行員らしい中年紳士が二人かなり高声に私にでも聞き取れるような高調子で話しているのを聞くともなく聞いていると、当時の内閣諸大臣の骨相を品評しているらしい。詳細は忘れたが結局大臣には人相が最も大切な資・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・は、今は知らず二十年も以前は、婚礼の三々九度の杯をあげている座敷へ、だれでもかまわず、ドヤドヤと上がり込んで、片手には泥だらけの下駄をぶら下げたままで、立ちはだかって花嫁や花婿の鼻の高低目じりの角度を品評した。それを制すれば門の扉の一枚ぐら・・・ 寺田寅彦 「LIBER STUDIORUM」
・・・この篇は写生文を品評するに当ってその条項の一となるべき者を指摘してわが所論の応用を試みたものである。 夏目漱石 「写生文」
・・・ この色がいいと云って、夏蜜柑などを品評する事もある。けれども、かつて銭を出して水菓子を買った事がない。ただでは無論食わない。色ばかり賞めている。 ある夕方一人の女が、不意に店先に立った。身分のある人と見えて立派な服装をしている。そ・・・ 夏目漱石 「夢十夜」
・・・私のここに他人本位というのは、自分の酒を人に飲んでもらって、後からその品評を聴いて、それを理が非でもそうだとしてしまういわゆる人真似を指すのです。一口にこう云ってしまえば、馬鹿らしく聞こえるから、誰もそんな人真似をする訳がないと不審がられる・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・ また古来士風の美をいえば三河武士の右に出る者はあるべからず、その人々について品評すれば、文に武に智に勇におのおの長ずるところを殊にすれども、戦国割拠の時に当りて徳川の旗下に属し、能く自他の分を明にして二念あることなく、理にも非にもただ・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・しかるに楽天の徒歩旅行というのはあるいは政治経済の事より教育の事、工業の事を記し、あるいは旅行里程宿泊料等個人的のものをも記し、あるいは衣服飲食などを論じて菓子の品評さえする事もある。その目的は実に複雑であって、そうして一日の記事を凡そ新聞・・・ 正岡子規 「徒歩旅行を読む」
・・・ 蕪村の絵画は余かつて見ず、ゆえにこれを品評すること難しといえども、その意匠につきては多少これを聞くを得たり。蕪村は南宗より入りて南宗を脱せんと工夫せしがごとし。南宗を学びしはその雅致多きを愛せしならん。南宗を脱せんとせしは南宗の粗鬆な・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫