・・・それに対して一々何とか返事を出さなければならないのである。外国から講演をしに来てくれと頼まれる。このような要求は研究に熱心な学者としての彼には迷惑なものに相違ないが、彼は格別厭な顔をしないで気永に親切に誰にでも満足を与えているようである。・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・もし木戸松菊がいたらば――明治の初年木戸は陛下の御前、三条、岩倉以下卿相列座の中で、面を正して陛下に向い、今後の日本は従来の日本と同じからず、すでに外国には君王を廃して共和政治を布きたる国も候、よくよく御注意遊ばさるべくと凜然として言上し、・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・「ハワイって、外国かい?」 一緒に歩きながら、私達はよくハワイの話をした。林のお父さんも、お母さんもまだそこで大きな商店をやってるということだった。「アメリカさ、太平洋の真ン中にあるよ」 フーン、と私は返辞する。地図で習った・・・ 徳永直 「こんにゃく売り」
・・・旧幕府の時開成所の教官となり、又外国奉行の通訳官となり、両度欧洲に渡航した。維新の後私塾を開いて生徒を教授し、後に東京学士会院会員に推挙せられ、ついで東京教育博物館長また東京図書館長に任ぜられ、明治十九年十二月三日享年六十三で歿した。秋坪は・・・ 永井荷風 「上野」
・・・もう一口説明しますと、西洋の開化は行雲流水のごとく自然に働いているが、御維新後外国と交渉をつけた以後の日本の開化は大分勝手が違います。もちろんどこの国だって隣づき合がある以上はその影響を受けるのがもちろんの事だから吾日本といえども昔からそう・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・金沢では外国人は多く公園から小立野へ入る入口の処に住んでいる。外国人といっても僅の数に過ぎないが。私はその頃ちょうど小立野の下に住んでいた。夕方招かれた時刻の少し前に、家を出て、坂を上り、ユンケル氏の宅へ行ったのである。然るにどうしたことか・・・ 西田幾多郎 「アブセンス・オブ・マインド」
・・・日本の諸国にあるこの種の部落的タブーは、おそらく風俗習慣を異にした外国の移住民や帰化人やを、先祖の氏神にもつ者の子孫であろう。あるいは多分、もっと確実な推測として、切支丹宗徒の隠れた集合的部落であったのだろう。しかし宇宙の間には、人間の知ら・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・ 流石は外国人だ、見るのも気持のいいようなスッキリした服を着て、沢山歩いたり、どうしても、どんなに私が自惚れて見ても、勇気を振い起して見ても、寄りつける訳のものじゃない処の日本の娘さんたちの、見事な――一口に云えば、ショウウインドウの内・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・昔の御殿風を以てす可らざるは言うまでもなきことなれども、幼少の時より国字の手習、文章手紙の稽古は勿論、其外一切の教育法を文明日進の方針に仕向けて、物理、地理、歴史等の大概を学び、又家の事情の許す限りは外国の語学をも勉強して、一通りは内外の時・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・と、まあ、こんな考からして外国語学校の露語科に入学することとなった。 で、文学物を見るようになったのは、語学校へ入って、右のような一種の帝国主義に浮かされて、語学を研究しているうちに自らその必要が起って来たので。というのは、当時の語学校・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
出典:青空文庫