・・・ それは大事な魂胆をお聞き及びになりましたので、と熱心に傾聴したる三好は顔を上げて、してそのことはどのような条規を具えているものに落札することになりましょうか。 さあその条規も格別に、これとむつかしいことはなく、ただその閣令を出す必・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・』『アハハハハハ麦飯を食わして共稼ぎをすればよかろう、何もごちそうをして天神様のお馬じゃアあるまいし大事に飼って置くこともない。』『吉さんはきっとおかみさんを大事にするよ』と、女は女だけの鑑定をしてお常正直なるところを言えばお絹も同・・・ 国木田独歩 「置土産」
・・・小さい几帳面な男子が必ずしも妻を愛し、婦人を尊敬するものではない。大事なところで、献身的につくしてくれるものでもない。要は男性としての本質を見よ。夫としてのたのみがいを見よ。婦人に対する礼と保護との男性的負荷を見よ、事業と生活に対する熱情と・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・ 憲兵伍長は、ポケットから、大事そうに、偽札を取り出して示した。「さあ、どうだったか覚えません。――あるいは出したやつかもしれません。」「どっから受取った?」「…………」 栗島は、憲兵上等兵の監視つきで、事務室へ閉めこま・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・この人が竿を大事にしたことは、上手に段細にしたところを見てもハッキリ読めましたよ。どうも小指であんなに力を入れて放さないで、まあ竿と心中したようなもんだが、それだけ大事にしていたのだから、無理もねえでさあ。」などと言っている中に雨がきれ・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・こんなことになったのは他人にだまされたんだと云い、息子をとられて、これからどう暮して行くんだ――それだけの事を文句も順序も同じに繰りかえして、進は腕のいゝ旋盤工で、これからどの位出世をするのか分らない大事な一人息子だからと云って、大きな蒲団・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・まするか、もちろん、それでわたしも決めました、決めたとは誰を、誰でもない山村の若旦那俊雄さまとあにそれこうでもなかろうなれど機を見て投ずる商い上手俊雄は番頭丈八が昔語り頸筋元からじわと真に受けお前には大事の色がと言えばござりますともござりま・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・彼女の周囲にあった親しい人達は、一人減り、二人減り、長年小山に出入してお家大事と勤めて呉れたような大番頭の二人までも早やこの世に居なかった。彼女は孤独で震えるように成ったばかりでなく、もう長いこと自分の身体に異状のあることをも感じていた。彼・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・ ふた親は乞食のじいさんがおいていった鍵を、一こう大事にしないで、そこいらへ、ほうり出しておきました。それをウイリイが玩具にして、しまいにどこかへなくして来ました。 ウイリイはだんだんに、力の強い大きな子になって、父親の畠仕事を手伝・・・ 鈴木三重吉 「黄金鳥」
・・・ わかいおかあさんはこの大事な重荷のために息を切って、森の中は暑いものだから、汗の玉が顔から流れ下りました。「のどがかわきました、ママ」 とおさないむすめは泣きつくのでした。「いい子だからこらえられるだけこらえてごらんなさい・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎 「真夏の夢」
出典:青空文庫