・・・ 電気局から鋏穴の検査を励行するように命令し奨励するとすれば、車掌がこれを遂行するのは当然の事である。そして車掌の人柄により乗客の種類によりそこに色々の場面が出現するのは当然の事である。 私は自分の落度を度外視して忠実な車掌を責める・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・あるひは幾分奨励の意を寓して、晩年更に奮発一番すべしとの心であるやも知れない。わたくしは昭和改元の際年は知命に達していた。二君の好意を空しくせまいと思っても悲しい哉時は早や過去ったようである。強烈な電燈の光に照出される昭和の世相は老眼鏡のく・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・従来の徳育法及び現今とても教育上では好んで義務を果す敢為邁往の気象を奨励するようですがこれは道徳上の話で道徳上しかなくてはならぬもしくはしかする方が社会の幸福だと云うまでで、人間活力の示現を観察してその組織の経緯一つを司どる大事実から云えば・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・ 博士制度は学問奨励の具として、政府から見れば有効に違いない。けれども一国の学者を挙げて悉く博士たらんがために学問をするというような気風を養成したり、またはそう思われるほどにも極端な傾向を帯びて、学者が行動するのは、国家から見ても弊害の・・・ 夏目漱石 「博士問題の成行」
・・・ 政府が国家的事業の一端として、保護奨励を文芸の上に与えんとするのは、文明の当局者として固より当然の考えである。けれども一文芸院を設けて優にその目的が達せられるように思うならば、あたかも果樹の栽培者が、肝心の土壌を問題外に閑却しながら、・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・これはあなた方を奨励するためにこういうことを言っているのである。それからまた日本人は雑誌などに出るちょっとした作物を見て、西洋のものと殆ど比較にならぬというが、それは嘘です。私の書いた小説なども雑誌に出ますが、それをいうのじゃない。間違えら・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・国家主義を奨励するのはいくらしても差支ないが、事実できない事をあたかも国家のためにするごとくに装うのは偽りである。――私の答弁はざっとこんなものでありました。 いったい国家というものが危くなれば誰だって国家の安否を考えないものは一人もな・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・ ゆえに本塾の教育は、まず文学を主として、日本の文字文章を奨励し、字を知るためには漢書をも用い、学問の本体はすなわち英学にして、英字、英語、英文を教え、物理学の普通より、数学、地理、歴史、簿記法、商法律、経済学等に終り、なお英書の難文を・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・我輩の飽くまでも勧告奨励する所にして、女徳の根本、唯一の本領なりと雖も、其柔順とは言語挙動の柔順にして、卑屈盲従の意味に非ず。大節に臨んでは父母の命を拒み夫の所業に争うことある可し。例えば家計云々の為めに娘を苦界に沈めんとし、又は利益の為め・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・例えば一国に農業を興さんとし商売を盛ならしめんとし、あるいは海国にして航海の術を勉めしめんとするときは、その政府において自から奨励の法あり。けだし農なり商なり、また航海なり、人生の肉体に属することにして近く実利に接するものなれば、政府はその・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
出典:青空文庫