・・・ 勿論、社会主義といったところで、当時は大真面目であったのだが、今考えると、頗る幼稚なものだったのだ。例えば、政府の施政が気に喰わなんだり、親達の干渉をうるさがったり、無暗に自由々々と絶叫したり――まあすべての調子がこんな風であったから・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・俳人の極めて幼稚なるものといえども、趣味の多様なることは曙覧の歌のわずかに新奇ならんとせしがごときに非ず。曙覧をして俳人ならしめば、ほとんどその名だに伝うるあたわざりしなるべし。いわんや彼は全く調子を解せざるをや。しかるにかくのごとき曙覧を・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・某の東北徒歩旅行は始めよりこの徒歩旅行と両々相対して載せられた者であったが、その文章は全く幼稚で別に評するほどのものではなかった。独り楽天の文は既に老熟の境に達して居てことさらに人を驚かすような新文字もないけれどそれでありながらまた人を倦ま・・・ 正岡子規 「徒歩旅行を読む」
・・・古人が客観に動かされたる自己の感情を直叙するは、自己を慰むるために、はた当時の文学に幼稚なる世人をして知らしむるために必要なりしならん。これ主観的美の行われたるゆえんなり。かつその客観を写すところきわめて麁鹵にして精細ならず。例えば絵画の輪・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・三文文士がこの字で幼稚な読者をごまかし、説教壇からこの字を叫んで戦争を煽動し、最も軽薄な愛人たちが、彼等のさまざまなモメントに、愛を囁いて、一人一人男や女をだましています。 愛という字は、こんなきたならしい扱いをうけていていいでしょうか・・・ 宮本百合子 「愛」
・・・を書いた当時のわたし自身の政治的な幼稚さはよくわかる。同時に、その評論をめぐって、そこに猟犬のように群がりたかって、わたしを噛みやぶり泥の中へころがすことで、プロレタリア文学運動そのものを泥にまびらす役割をはたした人々の動きかた――政治性も・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・この疑問は、幼稚な言葉であらわされるが、全く、どうしようと思っているかしら、と思う。 もう何年も、私たちは生きてゆくそのことを、自分たちの努力と分別とでやって来た。政府の力には、見当がついている。 今回の総選挙が、私たち全人民にとっ・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
・・・画面全体の効果から言えば、氏の幼稚な趣味が氏の技巧を全然裏切っていると言っていい。『慈悲光礼讃』という画題は、氏がこの画を描こうとした時の想念を現わすものかどうかは知らないが、もしこの種の企図を持ってこの画を描いたとすれば、そこにすでに破綻・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・―― 人間が幼稚であり素朴であったゆえにこの美を受容することが困難であったと考えてはいけない。素朴な心は解釈において単純であり、省察において粗雑である。しかしその本能的な直覚においては内生の雑駁な統一の力の弱い文明人よりはるかに鋭いので・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
・・・このようなことは彼らの内生の幼稚をほかにして解釈のしようがない。彼らは「自己」を改革する代わりに、二三の新しいことを自己にくっつけようとする。生まれ変わる代わりに、竹べらで自分の顔の造作を造り変えようとする。あまりにたわいがない。 彼ら・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
出典:青空文庫