・・・ 道楽と職業、一方に道楽という字を置いて、一方に職業という字を置いたのは、ちょうど東と西というようなもので、南北あるいは水火、つまり道楽と職業が相闘うところを話そうと、こういう訳である。すなわち道楽と職業というものは、どういうように関係・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・ウィリアムは幻影の盾を翳して戦う機会があれば……と思っている。 白城の城主狼のルーファスと夜鴉の城主とは二十年来の好みで家の子郎党の末に至るまで互に往き来せぬは稀な位打ち解けた間柄であった。確執の起ったのは去年の春の初からである。源因は・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・して、その真理原則を重んずることはなはだしく、この点においては一毫の猶予を仮さず、無理無則、これ我が敵なりとて、あたかも天下の公衆を相手に取りて憚るところなく、古学主義の生存するところを許さざるほどに戦う者なりといえども、また一方より見れば・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・ただ漫然たる江湖において、論者も不学、聴者も不学、たがいに不学無勘弁の下界に戦う者は、捨ててこれを論ぜざるなり。 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・ 3 烏の北斗七星戦うものの内的感情です。 4 注文の多い料理店二人の青年紳士が猟に出て路を迷い、「注文の多い料理店」にはいり、その途方もない経営者からかえって注文されていたはなし。糧に乏しい村のこどもらが、・・・ 宮沢賢治 「『注文の多い料理店』新刊案内」
・・・真によく愛すことと、真によく闘うことは、今日のような階級対立の鋭い大衆の不幸な社会にあって、全く同義語のような歴史的意義をもっていると私は思うのである。〔一九三五年五月〕 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・望と困難とのまざり合って流れている今日の生活の中にあって、この石のように、読む人の一人一人の人生はどんなに価値のあるものであり、個人は、どんなに歴史の中でその歴史を変えながら人間の幸福の可能のために、戦うものであるかということが、知らされて・・・ 宮本百合子 「あとがき(『幸福について』)」
・・・もちろん原で戦うのじゃから、敵も味方もその時は大抵騎馬であッた。が味方の手綱には大殿(義貞が仰せられたまま金鏈が縫い込まれてあッたので手綱を敵に切り離される掛念はなかッた。その時の二の大将の打扮は目覚ましい物でおじゃッたぞ」「一の大将も・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・が、彼が戦えば戦うほど、彼が医者を変えれば変えるほど、医者の死の宣告は事実と一緒に明克の度を加えた。彼は萎れてしまった。彼は疲れてしまった。彼は手を放したまま呆然たる蔵のように、虚無の中へ坐り込んだ。そうして、今は、二人は二人を引き裂く死の・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・海の力と戦う人間の姿。……集中と純一とが最も具体的な形に現われている。……力の充実……隙間のない活動。――一人の少年が両手を高くあげて波のなかに躍り込んで行く。首だけ出して、波にさらわれた板切れに追いすがる。やがて板切れを抱いて水を跳ね飛ば・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫