・・・そしてこの上もない恥曝しな所行であったが、それだけ私の頭が均衡を失っていたという証拠にはなる。 警官の話によるとこの頃電車では鋏穴の検査を特に厳重にしているらしいという事である。そして車掌の方では鋏穴ばかりを注目するのだから止むを得ない・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・新聞というものの勢力のせいもあるが、一つにはその所業がかなり独創的であって相手の伝統的対策を少なくも一時戸まどいをさせた、そのオリジナリティに対する賛美に似たあるものと、もう一つには、その独創的計画をどこまでも遂行しようという耐久力の強さ、・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・ともかくもだれのまねでもない、そうしてはなはだ合目的なこの一つの所行を、自分の頭で考えついて、そうしてあらゆる困難と戦ってそれをおしまいまで遂行することのできる人間が、もし充分な素養と資料とを与えられて、そうして自由にある専門の科学研究に従・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・そのためにこの証人には何かしら少し後ろ暗い所業を、しかもこの事件に聯関してさせておかないと都合がよくない。それかと云ってあんまり悪い事ではまた困るのである。この難儀な迷惑な証人の役目を負わせるための適任者は、別に物色するまでもなく例の夕刊嬢・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・以上のような読み方をするのはアカデミックな言語学者から見れば言語道断な乱暴な所業であるに相違ない。しかし古代の人間は文法も音韻方則も何も知らなかった。明治の日本人がステンショとかオーフルコートとか称したことを考え、昭和の吾々がビルジングとか・・・ 寺田寅彦 「短歌の詩形」
・・・ これほど美しいものを視る事の出来ない人に、香だけ嗅がせるのはあまりに残忍な所行である。 そう思ったので、つい花屋を通り過ぎてしまった。 寺田寅彦 「断片(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・を唱える事は、堪え難い屈辱であり、自己を野蛮化する所行のように思われたのである。これは無理のない事である。 簡単な言葉と理屈で手早くだれにもわかるように説明のできる事ばかりが、文明の陳列棚の上に美々しく並べられた。そうでないものは塵塚に・・・ 寺田寅彦 「田園雑感」
・・・智者の所業にははなはだもって不似合なり。いわゆる智者にして愚を働くものというべし。 ひっきょう、この水掛論は、元素の異同より生じたるものに非ず。その原因は、近く地位の異同より心情の偏重を生ずるによりて来りしものなれども、今日の有様にては・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・されども少しく考え見るときは、身の挙動にて教うることは書を読みて教うるよりも深く心の底に染み込むものにて、かえって大切なる教育なれば、自身の所業は決して等閑にすべからず。つまる処、子供とて何時までも子供にあらず、直に一人前の男女となり、世の・・・ 福沢諭吉 「家庭習慣の教えを論ず」
・・・大節に臨んでは父母の命を拒み夫の所業に争うことある可し。例えば家計云々の為めに娘を苦界に沈めんとし、又は利益の為めに相手を選ばずして結婚せしめんとするが如き、都て父母の利心に生じて子を弄ぶものなれば、仮令い親子の間にても断然その命を拒絶して・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
出典:青空文庫