・・・だって私は妹の守りをすることもあるし、忙がしいのだから、一緒になるにはそれより方法がないからだ。 ときどきは、私と一緒にこんにゃく売りについてくることもあった。そして、「よし、こんどはおれにかつがせろよ」 と言って、代ってこんに・・・ 徳永直 「こんにゃく売り」
・・・帚葉山人はわざわざわたくしのために、わたくしが頼みもせぬのに、その心やすい名医何某博士を訪い、今日普通に行われている避姙の方法につき、その実行が間断なく二、三十年の久しきに渉っても、男子の健康に障害を来すような事がないものか否かを質問し、そ・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・枳の実で閉塞した鼻孔を穿ったということは其当時では思いつきの軽便な方法であった。果物のうちで不恰好なものといったら凡そ其骨のような枳の如きものはあるまい。其枳の為に救われたということで最初から彼の普通でないことが示されて居るといってもいい。・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・さて吾々の活力が外界の刺戟に反応する方法は刺戟の複雑である以上固より多趣多様千差万別に違ないが、要するに刺戟の来るたびに吾が活力をなるべく制限節約してできるだけ使うまいとする工夫と、また自ら進んで適意の刺戟を求め能うだけの活力を這裏に消耗し・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・ 私は此からして自ら真実在というものが如何にして我々に求められるかという哲学的方法が出て来ると思う。それはかつてデカルトが『省察録』において用いた如く、懐疑による自覚である、meditari である。それは徹底的な否定的分析でなければな・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・彼がこの文章の形式を選んだのは、一つには彼の肉体が病弱で、体系を有する大論文を書くに適しなかつた為もあらうが、実にはこの形式の表現が、彼のユニイクな直覚的の詩想や哲学と適応して居り、それが唯一最善の方法であつたからである。アフォリズムとは、・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・外に方法がないんだ。 彼女もきっとこんなことを考えたことがあるだろう。「アア私は働きたい。けれども私を使って呉れる人はない。私は工場で余り乾いた空気と、高い温度と綿屑とを吸い込んだから肺病になったんだ。肺病になって働けなくなったから・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・家に遺伝の遺産ある者、又高運にして新に家を成したる者、政府の官吏、会社の役人、学者も医者も寺の和尚も、衣食既に足りて其以上に何等の所望と尋ぬれば、至急の急は則ち性慾を恣にするの一事にして、其方法に陰あり陽あり、幽微なるあり顕明なるあり、所謂・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
翻訳は如何様にすべきものか、其の標準は人に依って、各異ろうから、もとより一概に云うことは出来ぬ。されば、自分は、自分が従来やって来た方法について述べることとする。 一体、欧文は唯だ読むと何でもないが、よく味うて見ると、・・・ 二葉亭四迷 「余が翻訳の標準」
・・・銭乏しかりける時米の泉なほたらずけり歌をよみ文をつくりて売りありけども 彼が米代を儲け出す方法はこの歌によりてやや推すべし。ある日、多田氏の平生窟より人おこせ、おのが庵の壁の頽れかかれるをつくろはす来つる・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
出典:青空文庫