・・・馬場はヨオゼフ・シゲティと逢って話を交した。日比谷公会堂での三度目の辱かしめられた演奏会がおわった夜、馬場は銀座のある名高いビヤホオルの奥隅の鉢の木の蔭に、シゲティの赤い大きな禿頭を見つけた。馬場は躊躇せず、その報いられなかった世界的な名手・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
おもてには快楽をよそい、心には悩みわずらう。 ――ダンテ・アリギエリ 晩秋の夜、音楽会もすみ、日比谷公会堂から、おびただしい数の烏が、さまざまの形をして、押し合・・・ 太宰治 「渡り鳥」
・・・パチリと一つスウィッチを入れさえすれば、日比谷公会堂の演奏、歌舞伎座の演技が聞かれるからである。昔の山の手の住民が浅草の芝居を見に行くために前夜から徹夜で支度して夜のうちに出かけて行った話と比較してみるとあまりにも大きな時代の推移である。し・・・ 寺田寅彦 「ラジオ雑感」
出典:青空文庫