・・・体力脳力共に吾らよりも旺盛な西洋人が百年の歳月を費したものを、いかに先駆の困難を勘定に入れないにしたところでわずかその半に足らぬ歳月で明々地に通過し了るとしたならば吾人はこの驚くべき知識の収穫を誇り得ると同時に、一敗また起つ能わざるの神経衰・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・ この時代、小熊氏の活躍は量的に旺盛であったろうけれども、おのずから自身の生活も現実への無評価ということからアナーキスティックな色調を帯びざるを得なかったと思われる。 最後に近い年に到って、小熊さんは自身の言葉の才への興じかたも落ち・・・ 宮本百合子 「旭川から」
・・・ 文化に対する理解がそこにあるとされているが、そういう国では現在青年群に与える読みものとしてそういう古典を整頓しているほか、その青年たちが成人したときその世代の文化的創造力を溌溂旺盛ならしめるために、どんな独創の可能を培いつつあるのだろ・・・ 宮本百合子 「明日の実力の為に」
・・・ プロレタリア文学運動が、端緒的であった自身の文学理論を一歩一歩と前進させながら、作品活動も旺盛に行っているのに対して、ブルジョア文学は、そのころから不可抗に創造力の衰退と発展性の喪失をしめしだした。日本資本主義高揚期であった明治末及び・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・生活力の旺盛なものに、誰が死の話を持ちかける! 自分にとって、何より大切な、心を掴むことは、彼が実に真面目な人間として最後まで持ちこたえた、と云うことである。 足助氏その他に相談しながら血縁の誰にも一言洩さなかったことの意味もよくわ・・・ 宮本百合子 「有島武郎の死によせて」
・・・われわれは組織活動はもちろんやらねばならないし組織活動の旺盛化の要因として創作活動も高められなければならない。だが、何ともいそがしいではないか。同盟内の仕事はおのおのの部署にあり班会にあり実にうんと用事がある。サークル活動は更に多くの精力を・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・子供の居ない家に欠けて居た旺盛な活動慾、清らかな悪戯、叱り乍ら笑わずに居られない無邪気な愛嬌が、いきなり拾われて来た一匹の仔犬によって、四辺一杯にふりまかれたのだ。 私は少しぬかる泥もいとわず、彼方にかけ、此方に走りして仔犬を遊ばせた。・・・ 宮本百合子 「犬のはじまり」
・・・又は勁く、叢れ、さっと若葉を拡げた八つ手、旺盛な精力の感、無意識に震える情慾の感じ。電車の音、自動車の疾走戸外は音響に充ち少年は、頻りに口笛を吹く。静謐な家の中 机に向い自分は、我と我がひろき額、髪を撫でこする。・・・ 宮本百合子 「五月の空」
・・・三 生命全体の活動が旺盛となり、人格価値が著しく高まって来ると、そこにこの沸騰せる生命を永遠の形において表現しようとする衝動が伴なう。あらゆる形象と心霊、官能と情緒、運動と思想、――すべてが象徴としてこの表現のためには使役さ・・・ 和辻哲郎 「創作の心理について」
・・・わたくしはそのころの京都大学の空気を知らないから、このきちょうめんさが外からの要求なのか、あるいは先生自身の内から出たのか、それを判断することはできないが、晩年まで衰えることのなかった先生の旺盛な探求心のことを思うと、あのとき先生が大学の方・・・ 和辻哲郎 「露伴先生の思い出」
出典:青空文庫