・・・醤油樽、炭俵、下駄箱、上げ板、薪、雑多な木屑等有ると有るものが浮いている。どろりとした汚い悪水が、身動きもせず、ひしひしと家一ぱいに這入っている。自分はなお一渡り奥の方まで一見しようと、ランプに手を掛けたら、どうかした拍子に火は消えてしまっ・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・そして、いきなり、棒を振り上げて、京一の頭をぐゎんと殴って、腹立たしそうに、それを傍の木屑の上に投げつけた。「これがまかないの棒じゃ?」「ははははは……」労働者達は、一時にどっと笑い出した。 京一は、眼が急にかっと光ったように思・・・ 黒島伝治 「まかないの棒」
・・・堅い木を一と刻みに削って、厚い木屑が槌の声に応じて飛んだと思ったら、小鼻のおっ開いた怒り鼻の側面がたちまち浮き上がって来た。その刀の入れ方がいかにも無遠慮であった。そうして少しも疑念を挾んでおらんように見えた。「よくああ無造作に鑿を使っ・・・ 夏目漱石 「夢十夜」
・・・そして三十分ばかりだまって歩くと、なにかぷうんと木屑のようなものの匂がして、すぐ眼の前に灰いろの細長い屋根が見えました。「誰か来ているな。」ファゼーロが叫びました。 その大きな黒い建物の窓に、ちらちらあかりが射しているのです。「・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
出典:青空文庫