・・・ 破していわく、汝提宇子、この段を説く事、ひとえに自縄自縛なり、まず DS はいつくにも充ち満ちて在ますと云うは、真如法性本分の天地に充塞し、六合に遍満したる理を、聞きはつり云うかと覚えたり。似たる事は似たれども、是なる事は未だ是ならず・・・ 芥川竜之介 「るしへる」
・・・科学者にしてかくのごとき問題に容喙する者は、その本分を忘れて邪路に陥る者として非難さるる事あり。しかれども実際は科学者が科学の領域を踏み外す危険を防止するためには、時にこれらの反省的考察が却って必要なるべし。特に予報の問題のごとき場合におい・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・に対する自分の好奇心を急激な加速度で増長せしめるに至った経路はあるいは一部の読者に興味があるかもしれないし、また自分が本分を忘れて、他人の門戸をうかがうような不倫をあえてするに至った事の申し訳にもいくぶんはなるかもしれないから一つの懺悔話と・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・僕等はこれを以て芸術家の本分となしている。僕等は曾て少壮の比ツルゲネフやフロオベル等の文学観をよろこび迎えたものである。歴史及び伝説中の偉大なる人物に対する敬虔の心を転じて之を匹夫匹婦が陋巷の生活に傾注することを好んだ。印象派の画家が好んで・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・真を発揮すると云うともったいない言葉でありますが、まず彼らの職業の本分を云うと、もっとも下劣な意味において真を探ると申しても差支ないでしょう。それで彼らの職務にかかった有様を見ると一人前の人間じゃありません。道徳もなければ美感もない。荘厳の・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ 導体的の文芸家美術家も、必要かも知れないが、人間の本分として、凡ての人は自覚しなければならない。此所が大切な所で充分に説明しなければいけないんですが、今日は時間がないからこれでやめます。 私のいうた事は、あなた方と私どもとの職業の・・・ 夏目漱石 「無題」
・・・之が為めに男子の怒ることあるも恐るゝに足らず、心を金石の如くにして争うこそ婦人の本分なれ。女大学記者は是等の正論を目して嫉妬と言うか。我輩は之を婦人の正当防禦と認め、其気力の慥かならんことを勧告する者なり。記者は前節婦人七去の条に、婬乱なれ・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ されども編末の備考に、「この書に載するところはただ倫理の要領のみにして、広く例を集めつまびらかに証を示すの業は、教師の本分としてこれを略せり。」とあるがゆえに、中学校、師範学校の教師が、本書を講ずるときに、種々様々の例証を引用して、学・・・ 福沢諭吉 「読倫理教科書」
・・・ 榎本氏が主戦論をとりて脱走し、遂に力尽きて降りたるまでは、幕臣の本分に背かず、忠勇の功名美なりといえども、降参放免の後に更に青雲の志を発して新政府の朝に富貴を求め得たるは、曩にその忠勇を共にしたる戦死者負傷者より爾来の流浪者貧窮者に至・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・一人の或る女――それは娘時代には昔風の母親に生活させられた、然し時代が真の女性の本分を要求したのに刺戟されて、初めて自分の過去の生活を反省し、社会主義から婦人運動の中にまで入り、やや反抗的な態度の生活に入る。そしてその女はそれを人間としての・・・ 宮本百合子 「今日の女流作家と時代との交渉を論ず」
出典:青空文庫