・・・なるほどそう云われて見ると、黒々と盛り上った高地の上には、聯隊長始め何人かの将校たちが、やや赤らんだ空を後に、この死地に向う一隊の士卒へ、最後の敬礼を送っていた。「どうだい? 大したものじゃないか? 白襷隊になるのも名誉だな。」「何・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・博士は又大詩人であって『死地に乗入る六百騎』というような韻文が当時の青年の血を湧かした。 二十五年前には琴や三味線の外には音楽というものが無かった。オルガンやヴヮイオリンは学校の道具であって、音楽学校の養成する音楽者というは『蛍の光』を・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・ さらに、インフレーションにより、当然招来する物価の騰貴は、いよ/\彼等を死地に追いやるものとして、ありの群に、殺虫剤をかけると同じいものです。いままでも時代の不遇に泣く人々はあったが、しかし、今日彼等の群は、ありの群よりも多数者である・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・トナカイが死地に陥って敢然たる攻勢を取り近寄る犬どもを踏みつぶそうとする光景は獣類とはいえ悲壮である。いかなる名優の活劇でも、これに比べてはおそらく茶番のようなものである。それからの後の場面で荒涼たる大雪原を渡ってくるトナカイの大群の実写は・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
出典:青空文庫