・・・――その遠くの交叉路には時どき過ぎる水族館のような電車。風景はにわかに統制を失った。そのなかで彼は激しい滅形を感じた。 穉い堯は捕鼠器に入った鼠を川に漬けに行った。透明な水のなかで鼠は左右に金網を伝い、それは空気のなかでのように見えた。・・・ 梶井基次郎 「冬の日」
・・・中の島の水族館にはいる。「先生、見事な緋鯉でしょう?」「見事だね。」すぐ次にうつる。「先生、これ鮎。やっぱり姿がいいですね。」「ああ、泳いでるね。」次にうつる。少しも見ていない。「こんどは鰻です。面白いですね。みんな砂の・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
――愛ハ惜シミナク奪ウ。 太宰イツマデモ病人ノ感覚ダケニ興ジテ、高邁ノ精神ワスレテハイナイカ、コンナ水族館ノめだかミタイナ、片仮名、読ミニククテカナワヌ、ナドト佐藤ジイサン、言葉ハ怒リ、内心・・・ 太宰治 「創生記」
・・・それから水族館へ行って両棲動物を見た。ラインゴルドで午食をして、ヨスチイで珈琲を飲んで、なんにするという思案もなく、赤い薔薇のブケエを買って、その外にも鹿の角を二組、コブレンツの名所絵のある画葉書を百枚買った。そのあとでエルトハイムに寄って・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
出典:青空文庫