・・・特に女性は美しく、淑やかな上にコケチッシュであった。店で買物をしている人たちも、往来で立話をしている人たちも、皆が行儀よく、諧調のとれた低い静かな声で話をしていた。それらの話や会話は、耳の聴覚で聞くよりは、何かの或る柔らかい触覚で、手触りに・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・若い娘に対して、この作家はやっぱり従来の日本の家庭の雰囲気が生んだ内気なもの、淑やかなもの、人生に対して受動的な純潔、無邪気に満ちている美を美として認めている。漱石が、自分の恋愛に対して自主的であり、捨身である女を描くことができたのは、きわ・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
・・・それは穏かに庭で育った高価な家畜のような淑やかさをもっていた。また遠く入江を包んだ二本の岬は花園を抱いた黒い腕のように曲っていた。そうして、水平線は遙か一髪の光った毛のように月に向って膨らみながら花壇の上で浮いていた。 こういうとき、彼・・・ 横光利一 「花園の思想」
出典:青空文庫