・・・次兄は、酒にも強く、親分気質の豪快な心を持っていて、けれども、決して酒に負けず、いつでも長兄の相談相手になって、まじめに物事を処理し、謙遜な人でありました。そうしてひそかに、吉井勇の、「紅燈に行きてふたたび帰らざる人をまことのわれと思ふや。・・・ 太宰治 「兄たち」
・・・いざ金がいるとなると、ポルジイはどんな危険な相談にでも乗る。お負にそれを洒々落々たる態度で遣って除ける。ある時ポルジイはプリュウンという果の干したのをぶら下げていた。それはボスニア産のプリュウン二千俵を買って、それを仲買に四分の一の代価で売・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・もしできれば次に出版するはずの随筆集の表紙にこの木綿を使いたいと思って店員に相談してみたが、古い物をありだけ諸方から拾い集めたのだから、同じ品を何反もそろえる事は到底不可能だというので遺憾ながら断念した、新たに織らせるとなるとだいぶ高価にな・・・ 寺田寅彦 「糸車」
・・・何でも皆んなに相談してやるようにしなさい。お父さんがいないんだから、そのつもりでもっとまじめになって、今までのように、びらしゃらして楽をしていないで、自分で自分の運命を切り拓いてゆくように、心を入れかえなくちゃいかん。ここの家なんか、こんな・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・「いまお父さんは市の収入役してるよ、アメリカ人でも、フランス人でもお父さんのところへ相談にくるんだよ」「フーム」 私は写真帳を見ながら、すっかり感心してしまった。そして林が何故、私のこんにゃく売りを軽蔑しないか、それがわかった気・・・ 徳永直 「こんにゃく売り」
・・・私の乳母は母上と相談して、当らず触らず、出入りの魚屋「いろは」から犬を貰って飼い、猶時々は油揚をば、崖の熊笹の中へ捨てて置いた。 父親は例の如くに毎朝早く、日に増す寒さをも厭わず、裏庭の古井戸に出て、大弓を引いて居られたが、もう二度と狐・・・ 永井荷風 「狐」
・・・しかし死んだものは笑いたくても、顫えているものは笑われたくても、相談にはならん。 かんかららんは長い橋の袂を左へ切れて長い橋を一つ渡って、ほのかに見える白い河原を越えて、藁葺とも思われる不揃な家の間を通り抜けて、梶棒を横に切ったと思った・・・ 夏目漱石 「京に着ける夕」
・・・ 然し、一人でさえも登り難い道を、一人を負って駈ける事は、出来ない相談だった。 彼等が、川上の捲上小屋へ着く前に、第一発が鳴った。「ハムマー穴のだ!」 小林は思った。音がパーンと鳴ったからだ。 ド、ドワーン!「相鳴り・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・それで、急にまた出京るという目的もないから、お前さんにも無理な相談をしたようなわけなんだ。先日来のようにお前さんが泣いてばかりいちゃア、談話は出来ないし、実に困りきッていたんだ。これで私もやっと安心した。実にありがたい」 吉里は口にこそ・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・又子の方より言えば仮令い三十年二十五年以上に達しても、父母在すときは打明け相談して同意を求むるこそ穏なれ。法律は唯極端の場合に備うるのみ。親子の情は斯く水臭きものに非ず。呉々も心得置く可し。扨又結婚の上は仮令い命を失うとも心を金石の如くに堅・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
出典:青空文庫