・・・幸福をつかむ確率が最も大きいのでございます。博士は、ときどき、思い出しては、にやにや笑い、また、ひとり、ひそかにこっくり首肯して、もっともらしく眉を上げて吃っとなってみたり、あるいは全くの不良青少年のように、ひゅうひゅう下手な口笛をこころみ・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・がおそらくある出来事の「確率」と結び付けられるものであろうと云っている。これに対するアインシュタインの考えは不幸にしていまだ知る機会を得ない。ただ彼が昨年の五月ライデンの大学で述べた講演の終りの方に、「素量説として纏められた事実があるいは『・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・もっと言葉を変えて言えば、すべての事がらは、現世で確率の大きいと思われるほうから確率の僅少なほうへと進行するから不思議でないわけにはゆかないのである。たとえばわれわれの世界では桶の底に入れた一升の米の上層に一升の小豆を入れて、それを手でかき・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・屑のような論文が百も出るうちには一つくらいは少しはろくなものも交じる確率があり、万人の研究者の中には半人くらいは世界的の学者を出すプロバビリティーがあるかも知れない。それで、何かしら一つ仕事をすれば学位が必ずとれるとなれば志望者も自ずから増・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・この数を N(VC) で表わす。するとこの中である特定の一つの子音、たとえばSならSが出現するという事のプロバビリテーはいくらか。この確率は可能な子音の種類の数の逆数となる。それで全然偶然的暗合ならば現われるべきこの型の火山名の数nは N(・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・火事の災害の起こる確率は、失火の確率と、それが一定時間内に発見され通報される確率によって決定されるということも明白に認められていない。火事のために日本の国が年々幾億円を費やして灰と煙を製造しているかということを知る政府の役人も少ない。火事が・・・ 寺田寅彦 「火事教育」
・・・ところが、抵抗力の強い人は罹病の確率が少ないから統計上自然に跡廻しになりやすい、そうしてそういう人は罹っても少々のことではなかなか最初から降参してしまわない。そうして不必要で危険な我慢をし無理をする、すれば大抵の病気は悪くなる。そうしていよ・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・這入るときに置いた吸いさしが、出るときにその持主の手に返る確率が少なくも一九一〇年頃のベルリンよりは少ないであろう。しかし大戦後のベルリンでこのシガーの供待所がどういう運命に見舞われたかはまだ誰からも聞く機会がない。 ベルリンでも電車の・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・陶工の得た名声や利得が大きければ大きいほど、こういう事件の持ち上がる確率が大きいようである。 文学上の作品などでも、よくこれに類した「剽窃問題」が持ち上がる事がある。大文豪などはほとんど大剽窃家である。 哲学者科学者皆そうである。ア・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・ちょっと考えるとある地方で大地震が数年以内に起こるであろうという確率と、あるつり橋にたとえば五十人乗ったためにそれがその場で落ちるという確率とは桁違いのように思われるかもしれないが、必ずしもそう簡単には言われないのである。 最近の例とし・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
出典:青空文庫