・・・畠の収穫物の売上げは安く、税金や、生活費はかさばって、差引き、切れこむばかりだった。そうかといって、醤油屋の労働者になっても、仕事がえらくて、賃銀は少なかった。が今更、百姓をやめて商売人に早変りをすることも出来なければ、醤油屋の番頭になる訳・・・ 黒島伝治 「電報」
・・・「今年から、税金は、ちっとよけいにかゝって来るようになるぞ。」 土地を持った嬉しさに、母は、税金を納めるのさえ、楽しみだというような調子だった。兄と僕は傍できいていた。「何だい、たったあれっぽち、猫の額ほどの田を買うて、地主にで・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・「私は税金を、おさめないつもりでいます。私は借金で暮しているのです。私は酒も飲みます。煙草も吸います。いずれも高い税金がついて、そのために私の借金は多くなるばかりなのです。この上また、あちこち金を借りに歩いて、税金をおさめる力が私には、・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・地代だって先月からまた少しあがったし、それに税金やら保険料やら修繕費用なんかで相当の金をとられているのだ。ひとにめいわくをかけて素知らぬ顔のできるのは、この世ならぬ傲慢の精神か、それとも乞食の根性か、どちらかだ。甘ったれるのもこのへんでよし・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・「小学校四五年のころ、末の兄からデモクラシイという思想を聞き、母まで、デモクラシイのため税金がめっきり高くなって作米の殆どみんなを税金に取られる、と客たちにこぼしているのを耳にして、私はその思想に心弱くうろたえた。そして、夏は下男たちの・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・然らば即ち其年貢の米なり税金なり、百姓町人の男女共に働きたるものなれば、此公用を勤めたる婦人は家来に非ず領民に非ずと言うも不都合ならん。詰る所婦人に主君なしとの立言は、封建流儀より割出しても無稽なりと言うの外なし。此辺は枝葉の議論として姑く・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・「済まないが税金も高いから、今日はすこうし、川から水を汲んでくれ。」オツベルは両手をうしろで組んで、顔をしかめて象に云う。「ああ、ぼく水を汲んで来よう。もう何ばいでも汲んでやるよ。」 象は眼を細くしてよろこんで、そのひるすぎに五・・・ 宮沢賢治 「オツベルと象」
・・・「さよならみな様。又すべての上の尊い王さま、いつまでもそうしておいで下さい。」 赤いひとでが沢山集って来て二人を囲んでがやがや云って居りました。「こら着物をよこせ。」「こら。剣を出せ。」「税金を出せ。」「もっと小さくなれ。」「俺の靴・・・ 宮沢賢治 「双子の星」
・・・日本の全人民が収入の七割以上を税金にとられ、終戦費がそこから出されてもゆく、そのどこにワルト・ホイットマンの時代の社会があるというのだろう。 歴史の圧縮された二重の性格を貫いて、人民生活の安定を可能とする方向として人民的な民主主義という・・・ 宮本百合子 「真夏の夜の夢」
・・・それは数十万円の税金を払う最も多額の利潤を得た人々のために、政府が考えてやっている便法である。より少い、より僅かしか儲けなかった人に課せられる税は、率は少くても利潤の大半を引攫うものであろうが、それに対しては猶予はないのである。彼等の戦時利・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫