・・・……幼稚くたって緋と限りもしないわね。では、やっぱり女の児かしら。それにしては麦藁帽子……もっともおさげに結ってれば……だけど、そこまでは気が付かない。……」 大通りは一筋だが、道に迷うのも一興で、そこともなく、裏小路へ紛れ込んで、低い・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・のうちに稚くひびいている主題は追求され展開されてゆくであろう。 伸子一人の問題としてではなく、この四分の一世紀間に、日本の進歩的な精神が当面しなければならなかった多難な歴史の課題にふれながら。「伸子」と「二つの庭」との間に二十数年がけみ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・ 作者の心持が稚くても、ふっくりとしていて、描かれている農村の生活の細目も自然にうけとれた。ただし、主人公の青年の父親が、農民の生活を不安にする現実から、段々民主的な働きに目を向けて来てやがて積極的になってからのところが、割合安易にかけ・・・ 宮本百合子 「稚いが地味でよい」
・・・女学校の女の子は年も稚く、肉体の変化も激しい時期であるし体質もさまざまであろうと思う。一様に日傘をささないというようなことは、外見の上では一つのジェスチュアであるけれど、健康の上にどれだけ有益なのだろう。 校長だの教師だの団体の指導者だ・・・ 宮本百合子 「女の行進」
・・・そのようにおさなかった。稚く、こわばって、まじめであった。 この事実は、日本における社会主義的リアリズムの理解を今日にいたるまでまったく歪めた。この理論から文学における階級性の消滅だけが強調された。プロレタリア文学が自分の歴史性を喪って・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・十代の人間悲劇は、社会関係に対して稚く、しかも全く激烈であるということに特色をもっている。 文学が青春の周辺にあって、そこからはなれない理由の深さがここにある。 青春は人類の可能性の時期であり、どんなに肉体の年齢が重なろうと、その重・・・ 宮本百合子 「若い人たちの意志」
・・・をしたあげくにすることのような通念にも我知らず屈して、唯そのひとの純粋さえ失われなければ、と出されている条件が人間生活の現実にはほとんど全く成り立たないものだということを知っていないほど、著者は人生に稚く、それが娘の心だというのであろうか。・・・ 宮本百合子 「若い婦人の著書二つ」
・・・そういう大人たちは、この人生に自分たちの欲望しか認めず、自分たちの希望の成就しか目ざさずそのために未来は人間のよろこびとなる存在であったかもしれない稚く美しく哀れな生命の幾つかが圧しつぶされ、壊滅してゆくことについては全く鈍感に生活している・・・ 宮本百合子 「若き精神の成長を描く文学」
出典:青空文庫