・・・「『通鑑』は『綱目』だろう。」「そうさ。『綱目』でもやっとだ。『資治通鑑』が一人でかつげると思うか。」「たいして貸しそうもないぜ。『通鑑』も『要』の方がいいのだろう。」「これでも一晩位あそべるだろう。」 路傍にしゃがんで・・・ 永井荷風 「梅雨晴」
・・・窮屈な文部省の綱目に支配された女学校の課程の中で、教育だけは先生の自由にまかされていたと見え、飢え饑えていた若い知識慾が、始めて満される泉を見出したのであった。 生徒として、私は不規則な我まま者であったが、千葉先生の時間は、一度でもおろ・・・ 宮本百合子 「弟子の心」
・・・このため官能表徴と感覚表徴との明確な範疇綱目を限定することは最も困難なことではあるが、しかし、少くとも清少納言の感覚は、あれは感覚ではなく官能が静冷で鮮烈であったのだ。静冷であるが故に鮮烈な官能は一見感覚と間違われることが屡々ある。感覚的な・・・ 横光利一 「新感覚論」
出典:青空文庫