・・・朝夕平穏な時がなくなって、始終興奮している。苛々したような起居振舞をする。それにいつものような発揚の状態になって、饒舌をすることは絶えて無い。寧沈黙勝だと云っても好い。只興奮しているために、瑣細な事にも腹を立てる。又何事もないと、わざわざ人・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・すると、自分が棺を造っているのだと云うことも忘れて了って、だんだん加わって来る気持良い興奮の中に、間もなく彼は三つの箱をばらばらの板切れにして了った。そして、一時間の後には旭の紋の浮き上った四角い大きな箱棺が安次の小屋へ運ばれていた。・・・ 横光利一 「南北」
・・・沈んだ心持ちで書き始めたこの手紙をとりとめもなく書きつづけて行く内に、私は興奮して五体に力の充ちたことを感ずるようになりました。あなたは喜んでくださるでしょう。あなたに読んでいただくずっと前に、あなたに手紙を書いたという事だけで私にはもう効・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫