・・・田園的嫉妬の表白としてさもあらんとは思わるれども、この間に割愛せざるべからざる数行と言うことです。 前に書いた「な」の字さんの知っているのはちょうどこの頃の半之丞でしょう。当時まだ小学校の生徒だった「な」の字さんは半之丞と一しょに釣に行・・・ 芥川竜之介 「温泉だより」
・・・ ~~~~~~~~~~~~~~~~~ とにもかくにも、明治四十年代以後の詩は、明治四十年代以後の言葉で書かれねばならぬということは、詩語としての適不適、表白の便不便の問題ではなくて、新らしい詩の精神、すなわち時代の精神の必要で・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・それゆえにただわれわれの心のままを表白してごらんなさい。ソウしてゆけばいくら文法は間違っておっても、世の中の人が読んでくれる。それがわれわれの遺物です。もし何もすることができなければ、われわれの思うままを書けばよろしいのです。私は高知から来・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・ 詩はついに、社会革命の興る以前に先駆となって、民衆の霊魂を表白している。例えばこれが労働者の唄う歌にしろ、或は革命の歌にしろ、文字となってまず先きに現われるということは事実である。そして、芸術の形をつくるのである。それは最も感激的に、・・・ 小川未明 「詩の精神は移動す」
・・・それは自分の思想感情を、多少自由に表白することが出来るようになったところから、思想感情のありのまゝを伝える素直な純真な文章ではもの足らなくなって、強いて文字の面を修飾し誇張しようとする弊である。 修飾や誇張は、その人の思想感情が真に潤沢・・・ 小川未明 「文章を作る人々の根本用意」
・・・作者が肉体的に疲労しているときの描写は必ず人を叱りつけるような、場合によっては、怒鳴りつけるような趣きを呈するものでありますが、それと同時に実に辛辣無残の形相をも、ふいと表白してしまうものであります。人間の本性というものは或いはもともと冷酷・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・ケサノコノ走リ書モマタ、純粋ノ主観的表白ニアラザルコトハ、皆様承知。プンクト、ナドノ君ノ気持チト思イ合セヨ。急ニ書キタクナクナッタ。 スベテノ言、正シク、スベテノ言、嘘デアル。所詮ハ筏ノ上ノ組ンヅホツレツデアル、ヨロメキ、ヨロメキ、君モ・・・ 太宰治 「創生記」
・・・はあまり聞えはよくないかもしれないが、実はこれらの特定日の存在は平日の節約勤勉真面目を表白するとすれば目出度い事である。そしてそういう場合に行われるこれらの「デー」の効果は必ずしも悪いばかりとは思われない。たとえ今日のような世の中でも、場合・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・これは一見生徒の前に自分の無知を表白するように見える。ことに中学程度の生徒には教員の全知全能を期待するような傾向があるとすれば、なおさら教員の立場は苦しい訳であろう。しかしそれはほんの一時の困難であろうと思われる。一通りの知識と熱心と忍耐と・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・南阿弗利加の黒奴は獣の如く口を開いて哄笑する事を知っているが、声もなく言葉にも出さぬ美しい微笑によって、いうにいわれぬ複雑な内心の感情を表白する術を知らないそうである。健全なる某帝国の法律が恋愛と婦人に関する一切の芸術をポルノグラフィイと見・・・ 永井荷風 「妾宅」
出典:青空文庫