・・・世間見ずの坊ちゃんの浅薄愚劣なる世界観を、さもさも大人ぶって表白した筋書である。こんなものを演ぜねばならぬ役者はさぞかし迷惑な事だろうと思う。あの芸は、あれより数十倍利用のできる芸である。○油屋御こんなどもむやみに刀をすり更えたり、手紙・・・ 夏目漱石 「明治座の所感を虚子君に問れて」
・・・が文学の政策において、機械的なものをもっていたとしても、社会生活の歴史に於てインテリゲンツィアが抽象的な知識階級として独立した単位でないことは、知識人こそその知識を何かの形でいずれかの階級のものとして表白し且つ役立てている実際を観て明かに肯・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 考えるべき問題は非常に多く又深刻で、或意味に於ては、私の知識の欠乏と貧弱さとを表白するのみに止まりは仕まいかと云う杞さえございます。然し、或程度まで私は自分の信仰に信頼致します。今自分の斯くあり度い、斯くあるべきだと思う理論的、或は道・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・常識はそれに対して比較的容易に疑問を感じ且つそれを表白して来た。今回の顔ぶれはアカデミックな部分において、これまでの弱点が補強されている。しかも、長谷川如是閑氏が参加していることや、会則も綱領もないということなどは、何か質的に変化がもたらさ・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・新聞が、いかに理想低き一営業に過ぎないかを表白している。この精神的影響の上に数万円のハガキ代と、運動費、夥しい労力の消耗との結果、新たに八つの俗地が提灯持ち的に紹介されるに過ぎず、結局日日新聞の広告が全国的に最も有効に行われた事実に帰着する・・・ 宮本百合子 「夏遠き山」
・・・ われわれは、人間が理性ある者であることを信じるかぎり、人間が人間と生きるためには、平和が必要だという明白な真実を表白しつづけなければならない。〔一九五一年三月〕 宮本百合子 「「人間関係方面の成果」」
・・・このことが新日本文学会の第三回大会の小説部会の報告に赤裸々に表白された。そして、この報告につづくいくつもの理論部会の報告は、おのずから、小説部会からの訴えが根拠のないものでないことを感じさせたのであった。 今日民主的立場に立つ若い評論家・・・ 宮本百合子 「両輪」
・・・ 第八の娘の態度は第八の娘の意志を表白して、誤解すべき余地を留めない。 一人の娘は銀の杯を引っ込めた。 自然の銘のある、耀く銀の、大きな杯を引っ込めた。 今一人の娘は黒い杯を返した。 火の坑から湧き出た熔巌の冷めたような・・・ 森鴎外 「杯」
出典:青空文庫