・・・ジメ/\した田の上に家を建てゝ、そいつを貸したり、荷馬車屋の親方のようなことをやったり、製材所をこしらえたりやっていた。はじめのうちは金が、──地方の慾ばり屋がどんどん送ってよこすので──豊富で給料も十八円ずつくれたが、そのうち十七円にさげ・・・ 黒島伝治 「自伝」
・・・いくらか似た音を求めれば、製材所の丸鋸で材木を引き割るあの音ぐらいなものであろう。先年小田原の浜べで大波の日にヘルムホルツの共鳴器を耳に当て波音の分析を試みたことがあったが、かなりピッチの高い共鳴器で聞くとチリチリチリといったように一秒間に・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ そのプロレタリア街の、製材所の切屑見たいなバラックの一固まりの向うに、運河があった。その運河の汚ない濁った溜水にその向うの大きな工場の灯が、美しく映っていた。 工場では、モーターや、ベルトや、コムベーヤーや、歯車や、旋盤や、等々が・・・ 葉山嘉樹 「生爪を剥ぐ」
・・・ 今が今まで見たこともない製材工場へやって来て、巨大な、精緻な機械が、梁みたいに大きな木材を片はじからパンのように截って廻っているのを目撃したら、誰しも感歎する。 やがて職業意識をとり戻し、彼は、わきに案内役をしている工場新聞発行所・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫