・・・それからは、見た目にも道わるで、無理に自動車を通した処で、歩行くより難儀らしいから下りたんですがね――饂飩酒場の女給も、女房さんらしいのも――その赤い一行は、さあ、何だか分らない、と言う。しかし、お小姓に、太刀のように鉄砲を持たしていれば、・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・……そういえば、余りと言えば見馴れない風俗だから、見た目をさえ疑うけれども、肥大漢は、はじめから、裸体になってまで、烏帽子のようなものをチョンと頭にのせていた。「奇人だ。」「いや、……崖下のあの谷には、魔窟があると言う。……その・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・ と、熟と見た目を、俯目にぽッと染めた。 むっくりとした膝を敲いて、「それは御縁じゃ――ますます、丹、丹精を抽んでますで。」「ああ、こちらの御新姐ですか。」 と、吻として、うっかり言う。「いや、ええ、その……師、師匠・・・ 泉鏡花 「夫人利生記」
・・・ 分けても、真白な油紙の上へ、見た目も寒い、千六本を心太のように引散らして、ずぶ濡の露が、途切れ途切れにぽたぽたと足を打って、溝縁に凍りついた大根剥の忰が、今度は堪らなそうに、凍んだ両手をぶるぶると唇へ押当てて、貧乏揺ぎを忙しくしながら・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・とお秀は口籠った、そしてじっとお富の顔を見た目は湿んでいた。「祖母さんが何とか言ったのでしょう……真実に貴姉はお可哀そうだよ……」とお富の眼も涙含んだ。「祖母さんのことだから他の人には言えないけれど……そら先達貴姉の来ていらしゃ・・・ 国木田独歩 「二少女」
・・・ これを見た目で「素浪人忠弥」というのをのぞいて見た。それはただ雑然たる小刀細工や糊細工の行列としか見えなかった。ダイアモンドを見たあとでガラスの破片を見るような気がした。しかし観客は盛んに拍手を送った。中途から退席して表へ出で入り口を・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・対外的の意味で何かやらなければならないという場合、とりつきやすいのは目の前の見た目に立つ趣向である。浦和からの娘子行進にしろ、目に立つことでは成功したろう。けれども、そこから生れた後味、それによってこそ行進した方の真の感激も、行進をながめた・・・ 宮本百合子 「女の行進」
・・・ ドロンとした空に恥をさらして居る気の利かない桐を見た目をうつすと、向うと裏門の垣際に作られた花園の中の紅い花が、びっくりするほど華に見える。 鶏が入らない様にあらい金網で仕切られた五坪ほどの中に六つ七つの小分けがつけてある。 ・・・ 宮本百合子 「後庭」
・・・ 崇福寺などと同様、この福済寺も朱塗で、大棟に鯱や宝珠のついた明風建築だが、崇福寺よりは規模も大きいし、見た目に幾分厳正な感じを与えられる。青蓮堂の軒に、紫檀を枠にした古風なぎやまん細工の大燈籠が吊並べてあるの等、地方色豊かだ。青蓮堂に・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
出典:青空文庫