・・・ ハルトマンはかかる積極的な規定者がわれわれの意識の中にある証拠として、一切の行為、情操に伴う自己規定の意識、責任の感、罪の意識をあげているが、これらを合理化するためにこそ自由を証明したいのである。 ハルトマンはこれらのものから自由・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・「どっか僕が偽せ札をこしらえた証拠が見つかりましたか?」「まあ待て!」伍長は栗島を振りかえった。「このヨボが僕に札を渡したって云っていましたか。」 彼は、皮肉に意地悪く云った。「犯人はこいつにきまったんだ。何も云うこたないじ・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・また滝へ直接にかかれぬものは、寺の傍の民家に頼んでその水を汲んで湯を立ててもらって浴する者もあるが、不思議に長病が治ったり、特に医者に分らぬ正体の不明な病気などは治るということであって、語り伝えた現の証拠はいくらでもある。君の病気は東京の名・・・ 幸田露伴 「観画談」
・・・でも、私も子に甘い証拠には、何かの理由さえあれば、それで娘のわがままを許したいと思ったのである。お徳に言わせると、末子の同級生で新調の校服を着て学校通いをするような娘は今は一人もないとのことだった。「そんなに、みんな迷っているのかなあ。・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・別に証拠といってはないのだから、それが、藤さんがひそかに自分に残した形見であるとは容易に信じられるわけもない。しかし抽斗は今朝初やに掃除をさせて、行李から出した物を自分で納めたのである。袖はそれより後に誰かが入れたものだ。そしてこの袖は藤さ・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・スバーが、それを噛めるようにしてやる そうやって長いこと坐り、釣の有様を見ている時、彼女は、どんなにか、プラタプの素晴らしい手伝い、真個の助けとなって、自分が此世に只厄介な荷物ではないことを証拠だてたく思ったでしょう! けれども、何もす・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・いて、けれども兄の鬼面毒笑風の趣味が、それを素直に悲しむことを妨げ、かえって懸命に茶化して、しさいらしく珠数を爪繰っては人を笑わせ、愚僧もあの婦人には心が乱れ申したわい、お恥かしいが、まだ枯れて居らん証拠じゃのう、などと言い、私たちを誘って・・・ 太宰治 「兄たち」
・・・少なくも彼の頭が鉄と石炭ばかりで詰まっていない証拠にはなるかと思う。 彼はまだこれからが働き盛りである。彼が重力の理論で手を廻さなかった電磁気論は、ワイルによって彼の一般相対性原理の圏内に併合されたようである。これが成効であるとして・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・と叫んだのは、その証拠である。彼らはかくして笑を含んで死んだ。悪僧といわるる内山愚童の死顔は平和であった。かくして十二名の無政府主義者は死んだ。数えがたき無政府主義者の種子は蒔かれた。彼らは立派に犠牲の死を遂げた。しかしながら犠牲を造れるも・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・論より証拠、先ず試みに『詩経』を繙いても、『唐詩選』、『三体詩』を開いても、わが俳句にある如き雨漏りの天井、破れ障子、人馬鳥獣の糞、便所、台所などに、純芸術的な興味を托した作品は容易に見出されない。希臘羅馬以降泰西の文学は如何ほど熾であった・・・ 永井荷風 「妾宅」
出典:青空文庫