・・・それで順番に各自が宛がわれた章を講ずる、間違って居ると他のものが突込む、論争をする、先生が判断する、間違って居た方は黒玉を帳面に記されるという訳なのです。ですから、「彼奴高慢な顔をして、出来も仕無い癖にエラがって居る、一つ苦しめて遣れ」とい・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・砲煙弾雨の中に身命を賭して敵の陣営に突撃するのもたしかに貴い日本魂であるが、○国や△国よりも強い天然の強敵に対して平生から国民一致協力して適当な科学的対策を講ずるのもまた現代にふさわしい大和魂の進化の一相として期待してしかるべきことではない・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・事をなすに当って設備の道を講ずるは毫も怪しむに当らない。或人の話に現時操觚を業となすものにして、その草稿に日本紙を用うるは生田葵山子とわたしとの二人のみだという。亡友唖々子もまたかつて万年筆を手にしたことがなかった。 千朶山房の草稿もそ・・・ 永井荷風 「十日の菊」
・・・これが保存の法と恢復の策とを講ずる如きは時代の趨勢に反した事業であるのみならず、又既に其時を逸している。わたくし達は白鬚神社のほとりに車を棄て歩んで園の門に抵るまでの途すがら、胸中窃に廃園は唯その有るがままの廃園として之をながめたい。そして・・・ 永井荷風 「百花園」
・・・ 余は以上の如く根本において文芸院の設置に反対を唱うるものであるが、もし保護金の使用法について、幸いにも文芸委員がこの公平なる手段を講ずるならば、その局部に対しては大に賛成の意を表するに吝かならざるつもりである。その他の企画についても悉・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・ さて抽象の結果として、時間と空間に客観的存在を与えると、これを有意義ならしむるために数というものを製造して、この両つのものを測る便宜法を講ずるのであります。世の中に単に数というような間の抜けた実質のないものはかつて存在した試しがない。・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・去年までは女学校であったので、ここの神さんと妹が経験もなく財産もなく将来の目的もしかと立たないのに自営の道を講ずるためにこの上品のような下等のような妙な商買を始めたのである。彼らは固より不正な人間ではない。正道を踏んで働けるだけ働いたのだ。・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・その数およそ十名。六十四校を順歴して毎校に講席を設くること一月六度、この時には区内の各戸より必ず一人ずつ出席して講義を聴かしむ。その講ずるところの書は翻訳書を用い、足らざるときは漢書をも講じ、ただ字義を説くにあらず、断章取義、もって文明の趣・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・は漢書をも用い、学問の本体はすなわち英学にして、英字、英語、英文を教え、物理学の普通より、数学、地理、歴史、簿記法、商法律、経済学等に終り、なお英書の難文を読むの修業として、時としては高尚至極の原書を講ずることもあり。また道徳の課にいたりて・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・元来親に非ず子に非ざれば、其親子に非ざる真実の真面目に従て和合の法を講ずるこそ人情の本来なれ。我輩の特に注意する所のものなり。之を近づくれば固より相引き之を遠ざけても益相引かんとするは夫婦の間なれども、之を近づくれば常に相衝き之を遠ざくれば・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
出典:青空文庫