・・・何しろこんな離れ島でございますから、――」 わたしはそう云いかけたなり、また涙に咽びそうにしました。すると御主人は昔のように、優しい微笑を御見せになりながら、「しかし居心は悪くない住居じゃ。寝所もお前には不自由はさせぬ。では一しょに・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・青芒の茂った、葉越しの谷底の一方が、水田に開けて、遥々と連る山が、都に遠い雲の形で、蒼空に、離れ島かと流れている。 割合に土が乾いていればこそで――昨日は雨だったし――もし湿地だったら、蝮、やまかがしの警告がないまでも、うっかり一歩も入・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・いちばん恐ろしかったのは奄美大島の中の無人の離れ島で台風に襲われたときであった。真夜中に荒波が岸をはい上がってテントの直前数メートルの所まで押し寄せたときは、もうひと波でさらわれるかと思った。そのときの印象がよほど強く深かったと見えて、それ・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・ いつのまにかどこかの離れ島に渡っていた。海を隔ててはるかの向こうに群青色の山々が異常に高くそびえ連なっている。山々の中腹以下は黄色に代赭をくま取った雲霧に隠れて見えない。すべてが岩絵の具でかいた絵のように明るく美しい色彩をしている。も・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
出典:青空文庫