・・・又茶酒など多く飲む可らずと言う。茶も過度に飲めば衛生に害あり、況んや酒量を過すに於てをや、男女共に慎しむ可きことなり。是れも本文の通りにて異議なけれども、歌舞伎小唄浄瑠璃を見聴くべからず、宮寺等へ行くことも遠慮す可しとは如何ん。少しく不審な・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・こうなると人間は獣的嗜慾だけだから、喰うか、飲むか、女でも弄ぶか、そんな事よりしかしない。――一滴もいけなかった私が酒を飲み出す、子供の時には軽薄な江戸ッ児風に染まって、近所の女のあとなんか追廻したが、中年になって真面目になったその私が再び・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・この時虚子が来てくれてその後碧梧桐も来てくれて看護の手は充分に届いたのであるが、余は非常な衰弱で一杯の牛乳も一杯のソップも飲む事が出来なんだ。そこで医者の許しを得て、少しばかりのいちごを食う事を許されて、毎朝こればかりは闕かした事がなかった・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・そしていっぱいに気兼ねや恥で緊張した老人が悲しくこくりと息を呑む音がまたした。 宮沢賢治 「泉ある家」
・・・ 青いんですよ、日本の茶、砂糖なしで飲むの。 ――知ってますとも! よく知ってる、中央アジア=タシケントにいた時分始終のんでいました。 あっちじゃいつも青い茶を飲むんです、暑気払いに大変いいんです。 小さいカンの底に少し入ってい・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・そこへ据わって、マッチを擦って、朝日を一本飲む。 木村は為事をするのに、差当りしなくてはならない事と、暇のある度にする事とを別けている。一つの机の上を綺麗に空虚にして置いて、その上へその折々の急ぐ為事を持って行く。そしてその急ぐ為事が片・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・そこでは煙草を呑むことが禁じてある。折々眼鏡を掛けた老人の押丁が出て名を呼ぶ。とうとうツァウォツキイの番になって、ツァウォツキイが役人の前に出た。 役人は罫を引いた大きい紙を前に拡げて、その欄の中になんだか書き入れていたが、そのまま顔を・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
出典:青空文庫