そく‐さい【息災】例文一覧 10件

  1. ・・・この辺じゃ未だにこれを食えば、無病息災になると思っているんだ。」 譚は晴れ晴れと微笑したまま、丁度この時テエブルを離れた二三人の芸者に挨拶した。が、含芳の立ちかかるのを見ると、殆ど憐みを乞うように何か笑ったりしゃべったりした。のみならず・・・<芥川竜之介「湖南の扇」青空文庫>
  2. ・・・第二に、五月上旬、門へ打つ守り札を、魚籃の愛染院から奉ったのを見ると、御武運長久御息災とある可き所に災の字が書いてない。これは、上野宿坊の院代へ問い合せた上、早速愛染院に書き直させた。第三に、八月上旬、屋敷の広間あたりから、夜な夜な大きな怪・・・<芥川竜之介「忠義」青空文庫>
  3. ・・・ 魔を除け、死神を払う禁厭であろう、明神の御手洗の水を掬って、雫ばかり宗吉の頭髪を濡らしたが、「……息災、延命、息災延命、学問、学校、心願成就。」 と、手よりも濡れた瞳を閉じて、頸白く、御堂をば伏拝み、「一口めしあがれ、……・・・<泉鏡花「売色鴨南蛮」青空文庫>
  4. ・・・「汝、よく娶たな。」 お通は少しも口籠らで、「どうも仕方がございません。」 尉官はしばらく黙しけるが、ややその声を高うせり。「おい、謙三郎はどうした。」「息災で居ります。」「よく、汝、別れることが出来たな。」・・・<泉鏡花「琵琶伝」青空文庫>
  5. ・・・ 老松樹ちこめて神々しき社なれば月影のもるるは拝殿階段の辺りのみ、物すごき木の下闇を潜りて吉次は階段の下に進み、うやうやしく額づきて祈る意に誠をこめ、まず今日が日までの息災を謝し奉り、これよりは知らぬ国に渡りて軍の巷危うきを犯し、露に伏・・・<国木田独歩「置土産」青空文庫>
  6. ・・・ 無病息災を売物のようにしていた妹婿の吉田が思いがけない重患に罹って病院にはいる。妹はかよわい身一つで病人の看護もせねばならず世話のやける姪をかかえて家内の用もせねばならず、見兼ねるような窮境を郷里に報じてやっても近親の者等は案外冷淡で・・・<寺田寅彦「障子の落書」青空文庫>
  7. ・・・いじらしい人間の心を食い、無事息災をいのる心でたつきを立てるならば、せめて、年よりの足にたやすい方便を考えてもよいだろう。こういう願かけに、義弟の尊い生命の安危をたくしかねる私の心は、素朴な憤りにふるえた。こういうあわれな仕草で、自分の思い・・・<宮本百合子「琴平」青空文庫>
  8. ・・・互に求め合い、思い合っていた血縁、愛人達、誼の深い友達共が、はっと息災な眼を見合わせた刹那、思わずおとした一滴です。イオイナ まあ美しいこと。曇もない。かえしておやり、返しておやり。これは勤勉の根に注ぐ比類のない滋液です。使者 それ・・・<宮本百合子「対話」青空文庫>
  9. ・・・ 計らず手に入ったこの腕時計を私は重宝し、無事息災に五年間もっていた。たまには手頸につけたり、多くの時はハンドバッグに入れたりして。出来のよいのに当ったと見えて、この時計は殆ど進んだりおくれたりしたことがなかった。その正確さを私は深く愛・・・<宮本百合子「時計」青空文庫>
  10. ・・・知っているにしても、せめてはそれも心やりからで、出征してゆくものの無事息災を希う家族の気持がじかに迫って来て、縫うことを冷たく拒み得ないものがある。 胸を圧される心持でバスにゆられてかえって来たら、私の住んでいる駅の方からバンザーイとい・・・<宮本百合子「文芸時評」青空文庫>