・・・一、官の学校にては、おのずから衣冠の階級あるがゆえに、正しく学業の深浅にしたがって生徒席順の甲乙を定め難き場合あり。この弊を除くの一事は、議論上には容易なれども、事実に行われざるものなり。その失、三なり。一、官の学校にある者は、みず・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・この時、衣服の制限を立るに、何の身分は綿服、何は紬まで、何は羽二重を許すなどと命を出すゆえ、その命令は一藩経済のため歟、衣冠制度のため歟、両様混雑して分明ならず。恰も倹約の幸便に格式りきみをするがごとくにして、綿服の者は常に不平を抱き、到底・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・人の意尽く張三に見われたりといわんか夫の李四を如何。若李四に見われたりといわんか夫の張三を如何。して見れば張三も李四も人は人に相違なけれど、是れ人の一種にして真の人にあらず。されば未だ全く人の意を見わすに足らず。蓋し人の意は我脳中の人に於て・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・わたくしはあなたを遺憾なくはっきり拝することが出来ました。わたくしは胸が裂けるように動悸がいたしました。そしてあなたが好きになりました。やはり十六年前の青年よりは今のあなたの方が好きだと存じました。 あなたのような種類の人、あなたのよう・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・家来。何だかわたくしも存じません。厭らしい奴が大勢でございます。主人。乞食かい。家来。如何でしょうか。主人。そんなら庭から往来へ出る処の戸を閉めてしまって、お前はもう寝るが好い。己には構わないでも好いから。家来。いえ、そ・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・に匍匐ならびをろがみ奉る雲の上人天皇の大御使と聞くからにはるかにをがむ膝をり伏せて 勅使をさえかしこがりて匍匐いおろがむ彼をして、一たび二重橋下に鳳輦を拝するを得せしめざりしは返すがえすも遺憾のことなり。都にのぼりて・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・〔『日本』明治三十二年三月二十二日〕 曙覧が清貧の境涯はほぼこの文に見えたるも、彼の衣食住の有様、すなわち生活の程度いかんはその歌によって一層詳に知ることを得べし。その歌左に人にかさかしたりけるに久しうかへさざりければ、・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・○くだものの大小 くだものは培養の如何によって大きくもなり小さくもなるが、違う種類の菓物で大小を比較して見ると、准くだものではあるが、西瓜が一番大きいであろう。一番小さいのは榎実位で鬼貫の句にも「木にも似ずさても小さき榎実かな」とある。・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・「いいや、いかん。さあ払え。」「ないんですよ。許して下さい。そのかわりあなたのけらいになりますから。」「そうか。よかろう。それじゃお前はおれのけらいだぞ。」「へい。仕方ありません。」「よし、この中にはいれ。」 とのさ・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・多少御実験などもお話になりましたが実は遺憾乍らそれはみな実験になって居りません。 動物は衝動と本能ばかりだと仰っしゃいましたがまあそうして置きます。その本能や衝動が生きたいということで一杯です。それを殺すのはいけないとこれだけでお答には・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
出典:青空文庫