岩佐又兵衛作「山中常盤双紙」というものが展覧されているのを一見した。そのとき気付いたことを左に覚書にしておく。 奥州にいる牛若丸に逢いたくなった母常盤が侍女を一人つれて東へ下る。途中の宿で盗賊の群に襲われ、着物を剥がれ・・・ 寺田寅彦 「山中常盤双紙」
・・・次に二重奏連句の二人の作者が、もしその性格、情操、趣味等において互いに共通な点を多分にもっている場合には、句々の応酬はきわめて平滑に進行し、従って制作中のその二人の作者自身の心持ちはきわめて愉快に経過するのであるが、できあがったものを「連句・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・また徳川の時代に、江戸にいて奥州の物を用いんとするに、飛脚を立てて報知して、先方より船便に運送すれば、到着は必ず数月の後なれども、ただその物をさえ得れば、もって便利なりとして悦びしことなれども、今日は一報の電信に応じて、蒸気船便に送れば、数・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・ 欧州近時の文明は皆、この物理学より出でざるはなし。彼の発明の蒸汽船車なり、鉄砲軍器なり、また電信瓦斯なり、働の成跡は大なりといえども、そのはじめは錙朱の理を推究分離して、ついにもって人事に施したる者のみ。その大を見て驚くなかれ、その小・・・ 福沢諭吉 「物理学の要用」
・・・啻に戦争の勝敗のみに限らず、平生の国交際においても瘠我慢の一義は決してこれを忘るべからず。欧州にて和蘭、白耳義のごとき小国が、仏独の間に介在して小政府を維持するよりも、大国に合併するこそ安楽なるべけれども、なおその独立を張て動かざるは小国の・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・秀吉が奥州を「大しゅ」と書きしことさえ思い出されてなつかし、蕪村の磊落にして法度に拘泥せざりしことこの類なり。彼は俳人が家集を出版することをさえ厭えり。彼の心性高潔にして些の俗気なきこともって見るべし。しかれども余は磊落高潔なる蕪村を尊敬す・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・なかなか来ないです。欧州航路は大分混乱してますからね。来たらすぐ持って来てお目にかけますよ。土星の環なんかそれぁ美しいんですからね。」 土神は俄に両手で耳を押えて一目散に北の方へ走りました。だまっていたら自分が何をするかわからないのが恐・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
・・・ 二 日本の新聞の歴史は、こうして忽ち、反動的な強権との衝突の歴史となったのであるが、大正前後、第一次欧州大戦によって日本の経済の各面が膨脹したにつれて、いくつかの大新聞は純然たる一大企業として、経営される・・・ 宮本百合子 「明日への新聞」
・・・ どの新聞雑誌を見ても、銃後の婦人の力の実質が、この頃は生産拡充への直接間接の参加というところに重点をおかれており、常に欧州大戦当時の欧州婦人の活動が引きあわされている。「今から女工を養成して置くように」という言葉は、すでに去る五月杉山・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・――ここで第二巻は終っている。欧州戦争が始る。アンネットは母とし、一箇の自由主義者、理想主義者としてどう行動するであろうか。 私が感興を感じるのはアンネットが今日の進歩せる知識階級の女性の来ているところまで来ている点です。彼女は先天的な・・・ 宮本百合子 「アンネット」
出典:青空文庫