・・・非常に面白いお伽噺の話の節が、手際よくきびきびと運ばれて行く、そのテンポの緩急が宜しきを得ている。色々の美しいタチングな場面が丁度そのお伽噺の挿画のように順々にめくられて行く、そうした美しい挿画が数え切れないほど沢山あるのである。例えば家な・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(5[#「5」はローマ数字、1-13-25])」
・・・こういったようなものが緩急自在な律動で不断に繰り返される。円形の要素としては蓄音機の円盤、工場の煙突や軒に現われるレコードのマーク。工場の入り口にある出勤登録器のダイアル。それから昼顔の花もかすかにこれに反映するものである。直線運動としては・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・これらのシーンの推移のテンポは緩急自在で、実に目にも止まらぬような機微なものがある。試みにこの一巻を取ってこれを如実に表現すべき映画を作ることができたとしたら、かの「ベルリーン」のごときものは実に幼稚な子供の片言に過ぎないものになるであろう・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・観客のどよみも同じく空間を描き出す効果があるのみならず、その音の強弱緩急の波のうち方で土俵の上の活劇の進行の模様が相撲に不案内なわれわれにもよくわかるような気がする。それでこの放送では、むしろ観客群集のほうが精神的に主要な放送者であって、ア・・・ 寺田寅彦 「相撲」
・・・で読めばただ一目で土地の高低起伏、斜面の緩急等が明白な心像となって出現するのみならず、大小道路の連絡、山の木立ちの模様、耕地の分布や種類の概念までも得られる。 自分は汽車旅行をするときはいつでも二十万分一と五万分一との沿線地図を用意して・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・ 絵巻物の色々な場面の排列、モンタージュまた一つの場面の推移をはこぶコマ数の按配、テンポの緩急といったようなものに対する画家の計画には、ちょうど映画監督、編輯者のそれと同様な頭脳のはたらきを必要とすることがわかる。 映画としてのこの・・・ 寺田寅彦 「山中常盤双紙」
・・・然るときは、その二物の軽重緩急を察して、まず重大にして急なるものを写さざるべからず。 されば今の日本政府も、何等の大勢を写し出すものか、何物の真形を反射するものか、これを反射して真を誤らざるものか、無偏無党の平心をもってこれを察するは至・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・事に当りて論ず可きは大に論じて遠慮に及ばずと雖も、等しく議論するにも其口調に緩急文野の別あれば、其辺は格別に注意す可き所なり。口頭の談論は紙上の文章の如し。等しく文を記して同一様の趣意を述ぶるにも、其文に優美高尚なるものあり、粗野過激なるも・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・この一点において我輩が見る所を異にすると申すその次第は、敢えて論者の道徳論を非難するにはあらざれども、前後緩急の別について問う所のものなきを得ざるなり。 世界開闢の歴史を見るに、初めは独化の一人ありて、後に男女夫婦を生じたりという。我が・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・灰色の官給長外套を着たプロレタリアートの子が命令の意味を理解せず山羊皮外套を着たプロレタリアートの子を射った。「血の日曜日」である。 血は無駄に冬宮前の雪に浸みこんだのではなかった。「十月」が来た。 すべての権力をソヴェトへ 餓・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
出典:青空文庫