・・・ 此那奇蹟的関心が沢や婆に払われるには原因があった。仙二の家の納屋をなおした小屋に沢や婆は十五年以上暮していた。一月の三分の二はよその屋根の下で眠って来た。夏が去りがけの時、沢や婆さんは腸工合を悪くして寝ついた。何年にもない事であった。・・・ 宮本百合子 「秋の反射」
・・・ 大体、外国の本当に偉い作家たちはよく女性を描いているので感心します。トルストイも実に生きた女を描いたし、このロマン・ローランもジャン・クリストフの中に面白い沢山の活々した女性を描写している。ロマン・ローランは本当に女性を細かく理解して・・・ 宮本百合子 「アンネット」
・・・ この方法が成功したことは、一部の作家にとって、寒心すべきことでもなかったし、未来のために警戒するべきことともうけとられていない。むしろ、既成勢力の安定感として感じとられている。『群像』十二月号の創作月評座談会で、林房雄が、深刻ぶり、と・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ 又、腹の中では舌を出しながら、歓心を得ようが為許りに丁寧にし、コンベンショナルな礼を守り、一廉の紳士らしく装う男子に祭りあげられるのは、女性として如何に恥ずべきことか、と云うことも知っています。正当以上――過度に、尊敬、優遇されること・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・「それでも貴様はあれきり、支那人の物を取らんようになったから感心だ。」「全くお蔭を持ちまして心得違を致しませんものですから、凱旋いたしますまで、どの位肩身が広かったか知れません。大連でみんなが背嚢を調べられましたときも、銀の簪が出た・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・まあ、感心。男。何が感心です。貴夫人。だって旨く当りましたのですもの。全くおっしゃる通りなの。ですけれどそれがまた妙だと思いますわ。それはわたくしあなたに悪い事だったと思っている事をお話いたすつもりに違いございませんの。そこで妙だと・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「辻馬車」
・・・ これは作家の生活を中心とした見方の一例にまで書くのであるが、『春琴抄』という谷崎氏の作品を読むときでも、私も人々のいうごとく立派な作品だと一応は感心したものの、やはりどうしても成功に対して誤魔化しがあるように思えてならぬのである。題材・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・ しかしながら、此の資本主義機構は、崩壊しつつあるや否や、と云うことは、最早やわれわれ文学に関心するものの問題ではない。 われわれの問題は、文学と云うものが、此の資本主義を壊滅さすべき武器となるべき筈のものであるか、或いは文・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・だが彼はこの大遠征の計画の裏に、絶えず自分のルイザに対する弱い歓心が潜んでいたのを考えた。殊にそのため部下の諸将と争わなければならなかったこの夜の会議の終局を思うと、彼は腹立たしい淋しさの中で次第にルイザが不快に重苦しくなって来た。そうして・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・自分はここにその個所を紹介することによって右の書に対する関心を幾分かでもそそりたいと思う。 中世の末にヨーロッパの航海者たちが初めてアフリカの西海岸や東海岸を訪れたときには、彼らはそこに驚くべく立派な文化を見いだしたのであった。当時・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫