・・・アイルランド生れの物理学者であったジョン・チンダルは地質学者ではなかったが、数十年をへた今日でも、このアルプスを愛し氷河に興味をもった物理学者の観察の記述は精細さで比類すくないものとされている。面白さ、科学性と人間性の清潔な美しさにおいても・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・などと文化史的な興味深い記述の最後に「八重子『鳩公の話』といふ小説をよこす。出来よろし。虚子に送附」と書かれている。 ホトトギスに、その小説は掲載されたのであったでしょう。発信というところに、八重子とあるから、そういう点では責任をはっき・・・ 宮本百合子 「含蓄ある歳月」
・・・あの記述によって大統領選挙予測で、その調査所の権威を失墜させたのは今回のギャラップ博士の米国世論調査所その他の例ばかりでなかったことがわかった。一九三六年ルーズヴェルトとランドン両候補の間に大統領選挙がたたかわれたとき、当時アメリカにおいて・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・フランスの敗れた本質的な理由としてあげている幾つかの事情も、つまりは結果として現れた現象を並べているにすぎず、何故それらのことは起ったのかという大切な点について彼の記述は全く史的な洞察を欠いている。一九三五年の早春のパリ事件の本質が、フラン・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・而して、そのおし出しが、現実生活の中に在って既に一つの人間性の非力化へ導く広き門であることを一部の作家が論じたが、その補強的な論の建て直しは当時の気分によって望ましいようには受けいれられなかったことを記述した。その弱い点は、三年後の一九三六・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・がごちゃごちゃになって多くの評論家は現実評価のよりどころを失ったとともに自分の身ぶり、スタイル、ものの云いまわしというようなところで読者をとらえてゆく術に長けて来ているため、読者の感覚が、現実と論理の奇術は行わない本筋の評論の骨格になじみに・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・自分ではひどく不満足に思っているが、率直な、一切の修飾を却けた秀麿の記述は、これまでの卒業論文には余り類がないと云うことであった。 丁度この卒業論文問題の起った頃からである。秀麿は別に病気はないのに、元気がなくなって、顔色が蒼く、目が異・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・もとよりその詳細な測定や記述の仕事は、今後に残されているでもあろうが、しかしわれわれのような素人が、推古仏の源流を求めていろいろと考えてみるというような場合には、これで十分である。寸法が精確に測定されていながら、写像がぼんやりしているよりも・・・ 和辻哲郎 「麦積山塑像の示唆するもの」
出典:青空文庫