・・・現にあのプラトオンの共和国さえ、奴隷の存在を予想しているのは必ずしも偶然ではないのである。 又 暴君を暴君と呼ぶことは危険だったのに違いない。が、今日は暴君以外に奴隷を奴隷と呼ぶこともやはり甚だ危険である。 ・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・「さよう、ゾイリア共和国です。」「ゾイリアと云う国がありますか。」「これは、驚いた。ゾイリアを御存知ないとは、意外ですな。一体どこへお出でになる御心算か知りませんが、この船がゾイリアの港へ寄港するのは、余程前からの慣例ですぜ。」・・・ 芥川竜之介 「MENSURA ZOILI」
・・・日光と散歩に恵まれた彼の生活は、いつの間にか怪しい不協和に陥っていた。遠くの父母や兄弟の顔が、これまでになく忌わしい陰を帯びて、彼の心を紊した。電報配達夫が恐ろしかった。 ある朝、彼は日当のいい彼の部屋で座布団を干していた。その座布団は・・・ 梶井基次郎 「過古」
・・・完全和絃ばかりから構成されたものは音楽とはなり得ないように絵画でも幾多の不協和音や雑音に相当する要素がなければ深い面白味は生じ得ないではあるまいか。特に南画においてそういう必要があるのではあるまいか。然るに近代の多数の南画家の展覧会などに出・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・なんでも相生の代わりに相剋、協和の代わりに争闘で行かなければうそだというように教えられるのであるらしい。その理論がまだ自分にはよくわからない。 三つの音が協和して一つの和弦を構成するということは、三つの音がそれぞれ互いに著しく異なる特徴・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・音と音との協和不協和よりも前句と付け句との関係は複雑である。各句にすでに旋律があり和音があり二句のそれらの中に含まれる心像相互間の対位法的関係がある。連歌に始まり俳諧に定まった式目のいろいろの規則は和声学上の規則と類似したもので、陪音の調和・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・この同じピタゴラスがまた楽音の協和と整数の比との関係の発見者であり、宇宙の調和の唱道者であったことはよく知られているようであるが、この同じピタゴラスが豆のために命を失ったという話がディオゲネス・ライルチオスの『哲学者列伝』の中に伝えられてい・・・ 寺田寅彦 「ピタゴラスと豆」
・・・ってその結果われわれの脳髄に何事が起こるかということについては今日でも実はまだよくわかっていないのであるが、ただ甲が残して行った余響あるいは残像のようなものと、次に来る乙との間のある数量的な関係で音の協和不協和が規定されることだけは確実であ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・もし木戸松菊がいたらば――明治の初年木戸は陛下の御前、三条、岩倉以下卿相列座の中で、面を正して陛下に向い、今後の日本は従来の日本と同じからず、すでに外国には君王を廃して共和政治を布きたる国も候、よくよく御注意遊ばさるべくと凜然として言上し、・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・諸外国にても亜米利加の政治、共和なれども、その教育は必ずしも共和ならず。日耳曼の政治、武断なれども、その学校は武断の主義を教うるに非ず。仏蘭西の政体は毎度変革すれども、教育上にはいささかも変化を見ず。その他英なり荷蘭なり、また瑞西なり、政事・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
出典:青空文庫