・・・相手の坂田もそれに輪をかけた脱俗振りで、対局中むつかしい局面になると、「さあ、おもろなって来た。花田はん、ここはむつかしいとこだっせ。あんたも間違えんようしっかり考えなはれや」と相手をいたわるような春風駘蕩の口を利いたりした。 けれ・・・ 織田作之助 「勝負師」
・・・例えば馬の鞍の形をなせる曲面の背筋の中点より球を転下すれば、球の経路には二条の最大公算を有するものあるべし。またある時間内に降れる雨滴の大きさを験する時は、その大きさの公算曲線には数箇の山を見出すべし。これらの場合を総括するに、いずれもかつ・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・人情と義理と利害をXYZの座標とする空間に描きだされた複雑極まりない曲面の集合の一つの切り口が見える。これをじっと眺めていると、面白くもあれば恐ろしくもある。」 何かというとすぐに「XYZの座標」を持ちだすのが彼の一つの癖である。これさ・・・ 寺田寅彦 「年賀状」
・・・のであるまいか。 こんな事を考えるのはあるいは自分の子供の時に受けた「化け物教育」の薬がきき過ぎて、せっかく受けたオーソドックスの科学教育を自分の「お化け鏡」の曲面に映して見ているためかもしれない。そうだとすればこの一編は一つの・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・不愉快な灰色の高い壁は上の端で曲面を形作って天井につながっていた。天井の真中に白く塗った空気抜きの窓がただ一つあるだけであった。なんだか「壙穴」という文字がすぐに頭に浮んだ。 寺田寅彦 「病中記」
・・・いわゆる多で、新思想を導いた蘭学者にせよ、局面打破を事とした勤王攘夷の処士にせよ、時の権力からいえば謀叛人であった。彼らが千荊万棘を蹈えた艱難辛苦――中々一朝一夕に説き尽せるものではない。明治の今日に生を享くる我らは維新の志士の苦心を十分に・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・人生の全局面を蔽う大輪廓を描いて、未来をその中に追い込もうとするよりも、茫漠たる輪廓中の一小片を堅固に把持して、其処に自然主義の恒久を認識してもらう方が彼らのために得策ではなかろうかと思う。――明治四三、七、二三『東京朝日新聞』――・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
・・・だから日本歴史全部のうちで尤も先生の心を刺戟したものは、日本人がどうして西洋と接触し始めて、またその影響がどう働らいて、黒船着後に至って全局面の劇変を引き起したかという点にあったものと見える。それを一通り調べてもまだ足らぬ所があるので、やは・・・ 夏目漱石 「マードック先生の『日本歴史』」
・・・とにかく走者多き時は人は右に走り左に走り球は前に飛び後に飛び局面忽然変化して観者をしてその要を得ざらしむることあり。球戯を観る者は球を観るべし。○ベースボールの防者 防禦の地にある者すなわち遊技場中に立つ者の役目を説明すべし。攫者は常に・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・ ファッシズムへの抵抗、平和擁護の一つをとってみても日本の人民的民主主義の全局面が、現在どんなに国際的条件にかかわりあって来ているかがよくわかる。 異国趣味を通じて、より進んだと信じられている文化形態を通じて、民族の人民的文化の質が・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
出典:青空文庫